爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「サラ金崩壊 グレーゾーン金利をめぐる300日戦争」井出壮平著

テレビを見ればサラ金消費者金融)のCMが立て続けに流れていたのもそう古い話ではないのですが、今はまったく様変わりし、「過払い金請求」を呼びかける弁護士事務所のCMばかりのような印象になってしまいました。

 

この間にはグレーゾーン金利というかつてあった制度上の問題点が絡んでおり、それを法律改正により無くしたということは、なんとなく知ってはいたのですが、詳細はまったく分かりませんでした。

 

その点について、2006年に最高裁グレーゾーン金利否定の判決が出されてから、国会で貸金業法の改正がなされるまでの300日、どのようなことがあったのかを、共同通信社記者の著者の井出さんが詳細な取材を基に書き上げたのが本書です。

 

当然ながら消費者金融会社などの業界は必死の抵抗を繰り広げ、政治家やアメリカなども巻き込んでの闘争になりましたが、社会的に大きな問題となっていたサラ金による取り立てや多重債務といった情勢が追い風となりなんとか法成立となったのでした。

そこには、金融庁の参事官であった大森泰人氏の決意、与謝野馨金融経済財政担当相の支援もあってのものでした。

 

借金をした際の利息を定める法律は、その時点までは2つのものが存在し、その上限金利が食い違うという状況がありました。

一方は利息制限法で、元本金額に応じて差があるものの、最高利率が年20.0%、もう一方の出資法では年率29.2%でした。

この状況が1954年以降ずっと続いていました。

 

この20%から29.2%までの間のことを「グレーゾーン金利」と呼び、当然ながら消費者金融各社はそのグレーゾーンの上限近くで商売をしていました。

 

これに対し利息制限法を越える利息は違法とする裁判が起こされたのですが、最終的にそれを認めたのが2006年1月13日の最高裁判決でした。

しかし、その判決だけではグレーゾーン金利を禁止するということにはならず、この時点では金融業界も楽観的だったそうです。

 

それに対し、利息上限の引き下げを立法化しようという動きが金融庁の上記の参事官大森泰人氏などで起きてきます。

貸金業懇談会の様々なメンバーに根回しを始めるのですが、業界側メンバーからは利息の混在を出資法の29.2%に揃えるといった案まで出る状況で、立場の違いは明白でした。

しかし、新聞などでの報道も引き下げに好意的となり、徐々に社会的な動きも激しくなっていきます。

 

しかもちょうどその頃業界でも大手であったアイフルの違法取り立てに対する行政処分が下され、消費者金融業界に対する批判が激しくなっていきます。

それも追い風となり金利引き下げでのグレーゾーン解消という方向に動くことになります。

 

業界側の抵抗も、多くの政治家を動かしてのものとなりました。

法改正となっても特例を設けるとか、準備期間を長くするといった骨抜き策を取り入れようとしました。

また、アメリカのシティバンクを筆頭にしたシティグループも既に準大手のディックを買収して参入していたために、政府を通じての圧力をかけてきました。

 

しかし、特例法案に対しても社会の大きな反発を招くということになり、ほとんど特例のない貸金業法改正が採決されたのは同年11月29日の衆議院財務金融委員会でした。

 

この法改正により、消費者金融業界は大きな打撃を受けることになりました。

 

ただし、このような正規金融業者といわゆるヤミ金とは別問題であり、それはまだまだ大きな問題ではあるようですが、こちらは違法業者ですので警察の取締態度次第ということのようです。

 

このような誰が見ても正しい法改正であっても様々な抵抗があり、貫くには担当者の強固な意志と社会の後押しが必要ということでしょう。

 

サラ金崩壊―グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争

サラ金崩壊―グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争