著者の廣瀬さんは東京工業大学の地球生命研究所の所長として地球誕生や初期の地球環境、そして生命誕生について研究されているそうです。
これまでも地球科学というものに関しての本は何冊か読んできました。
「”地球のからくり”に挑む」大河内直彦著 - 爽風上々のブログ
それらの本を読んでみての印象では、今の気候変動論のような、「二酸化炭素が何ppm増加して気温が1度上がる激しい気候変動」などという議論がバカバカしくなるほどの大きな変化が地球の歴史の間には起きていたということです。
しかし今度のこの本は、特に「地球誕生直後」について詳しく書かれています。
さらに、そのほんの直後に生命も誕生してしまったということです。
今の地上に残っている岩石などを見ても地球誕生直後の様子などは分かりません。
こういったものを研究するということは非常に困難なことだと思いますが、著者の研究所ではそれを扱っているということです。
地球誕生は46億年前と言われていますが、その頃の岩石などは残っていません。
ではどうやってその年代を決めたかというと、太陽系に残されている最も古い物質、隕石として地球に落下しているものの年代を測定し、それを地球の誕生と考えているのです。
太陽系が皆一緒にできたものとして、その年代を地球誕生の時と考えているということです。
太陽系全体に分布していたガスが冷えて塵となり、それが衝突・合体を繰り返し、微惑星という小さな惑星の元ができ、それらがさらに衝突と合体を繰り返して最後にジャイアント・インパクトという最大の衝突が、原始の地球と火星サイズの天体の間に起き、地球と月の元の姿になりました。
そのときには合体の発熱で全体が摂氏1万℃まで上昇し何もかもが溶けてしまいました。
それが冷えてきて水蒸気が水になり、さらに冷やされて地球の形になりました。
しかし、その時の水の量は微々たるものでした。
それだけでは今のような水分に富んだ惑星にはならなかったでしょう。
それでは水分はどこから来たのか。
火星と木星の間には小惑星帯というものがあり、その小惑星は位置の関係で大量の水分を持っています。
それが、木星という非常に大きな星の重力のせいで散乱させられ、地球にも大量に降り注いだようです。
そこからもたらされた水分がこのような水の多い惑星の成立の原因となりました。
ただし、このような小惑星の衝突は火星にも金星にも起きたはずです。しかし現在はどちらにも海はありません。
これはなぜかというと、金星は太陽に近いために水蒸気となってしまい徐々に揮発してしまった。そして火星は小さすぎて水蒸気を留めておけなかったようです。
このように、地球に水が残ったというのは限られた条件のためだったといえます。
さて、このような小惑星由来の水分が地球の海の基になっているのは分かったのですが、現在の海水は地球全体の質量から言うとその0.02%に過ぎません。
シミュレーションによると実際はこの70倍ほどの量がなければならないそうです。
この水はどこへ行ったのか。
火山噴火の際に噴出するマグマには水分が含まれています。そもそもマグマというものはマントルに水分が加わったために流動化したものです。
それでは海水以外の水分はマグマになっているのか。
実はマグマに含まれる水分もそれほど多いわけではありません。
せいぜい海水の5倍量ほどです。
実は残りの水分は地球の中心に位置するコアに水素として含まれているということです。
地球のコアは固体の鉄です。そこに水素として取り込まれてしまったようです。
水は酸素と水素の化合物ですが、地球の中心には水素が取り込まれたものの酸素は入っていません。
酸素はマントルに酸化鉄として含まれるとともに、やはり隕石として地上に降り注いだ炭素と化合して二酸化炭素になったようです。
地表が何枚かのプレートでできていて、それが徐々に動くというのがプレートテクトニクス理論であり、地震などの原因と言われていますが、このプレート移動というのも海水が大きく関係しているようです。
プレートが海水で冷やされて収縮することでマントル全体が対流運動を起こすというのがその動きの原因であり、もしも海がなければこのような地表の運動もなかったはずです。
さて、46億年前に地球ができ、マグマが冷え固まったのは45.3億年前と考えられています。
そして、地球生命の誕生は38億年前と推定されていますが、その確実な証拠があるわけではありません。
38億年前のグリーンランドで見つかった岩石の炭素同位体比を調べたところ、生命に特徴的な数値が出たからその時には既に生命があったと考えられているのです。
もしかしたらそれより古い可能性もありそうです。
生命というものは有機物でできていますが、有機物があるだけでは生命ではありません。
持続的に生体分子を維持することができなければならないのですが、そこで著者たちが重要視しているのが「代謝」というものです。
周囲の有機物などを身体に役立つ物質に変える働きですが、現在の生物ではこれを酵素反応で行っています。
しかし、まだ酵素というものが発生していない頃には、触媒反応で行わなければならなかったはずです。
こういった生体反応が本当に触媒反応だけで進むのか、その実証が著者の研究所の大きなテーマになっているそうです。
現在の地球の生命は、すべてタンパク質・DNA・RNAを使い同じ反応を利用しています。
違う方式の生命体がなかったかどうか分かりませんが、あったとしても淘汰されたのでしょう。
深海で見つかった生物でも同様であったということはそれだけ現在の生物の広範囲な分布を示すものです。
ただし、地球外でも同様とは言えません。思いもよらない形の生物もあり得ることです。
著者はさすがにこの分野でもトップクラスの研究者です。一般人に対しての解説も分かりやすくポイントを捉えやすくされているものと思います。
地球という生命の星の成り立ちについて、思いを馳せれば人間同士の争いなどバカバカしく思えるといのは私だけの感想かもしれません。