爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「デフレ救国論 本当は怖ろしいアベノミクスの正体:再読」増田悦佐著

デフレからの脱却という言葉を合言葉のようにしている現政権と多くの財界人ですが、必ずしもすべての経済人がデフレからインフレへの転換が必要と考えているわけではありません。

 

この本の著者の増田さんは経済アナリストということですが、安倍が政権を取ってすぐにアベノミクスを始動し始めた2013年にその方向性が極めて危険であるとして、その意見を著しました。

私もそのすぐ翌年にこの本を読み、一応書評を書いていました。

「デフレ救国論 本当は怖ろしいアベノミクスの正体」増田悦佐著 - 爽風上々のブログ

 

一言でまとめるということはできませんが、あえて簡潔に言ってしまえば、デフレ状態であることは別に悪いわけではなく、それといわゆる不景気というものとは別のことである。そして、不景気を脱するためとしてインフレ誘導というのは非常に危険であり、国の経済が破綻する怖れも強いということです。

 

さらに、インフレになって儲けるのは経済強者だけであり庶民には大きな苦しみだけがやってくるとしています。

 

それから3年以上が経過し、幸い?本書が警鐘を鳴らしたような事態には至っていませんが、これは本書の主張が間違っていたのではなく、アベノミクス自体がほとんど効果がなかったということでしょう。

 

その他、本書の主張は非常に筋が通っており理路整然というべきものです。

 

それでは前の書評には詳細を書いていなかったので、概略と印象的な意見を書き留めておきます。

 

安倍就任後、アベノミクスを始めるにあたりその心構えとして、「レジームチェンジをして国民すべての気持ちを変える」ということを言いました。

しかし、これは国民の思考まで操ろうという専制君主のような考え方であり容認出来ないものです。

経済界ではプラグマティズム的な発想が流行っているようです。これは現代の世界の2大国、アメリカと中国が非常にプラグマティズムとの適合性が高いために勘違いされているようです。

プラグマティズムの3大失敗例は中国の「科挙」「宦官」「纏足」であるとしています。

世の中の問題を何か技術的に解決しようとするが、その弊害がどれだけ出るかということを考えられないのがこの特徴です。

このような思考法をするのが現代でもアメリカと中国である、そしてその後追いをしたがっているのが日本であるということです。

 

円高では製造業の輸出が伸びないために不況になると言われています。

しかし、日本の輸出額というものはGDPの14%程度に過ぎません。そのわずかな比率の輸出産業に利するために円安に誘導すれば、その他多くの輸入品を使っている産業や国民が大きな不利益を蒙ります。それを知りながら円安に誘導するのはそのごく一部の輸出産業にだけ媚を売るものです。

さらに、為替のの影響が特に強いのは最終消費財ですが日本の製造業ではそういった組立産業というものは減少しています。

素材や設備、機械や中間財の製造と輸出が比率を上げています。

こういった産業では多少円高になろうが相手方から見れば使わざるを得ないものであり、競争力は非常に強いものです。

日本の輸出産業では実はこういった部門が大半を占めているのです。

最終消費財は一般から見ても目立つのでそういった産業の売れ行きにも気づきやすいのですが、実は真の比率はまったく異なる所にあります。

 

アベノミクスの開始にともない、ジャブジャブの金融緩和を行うということで株高、円安にふれました。

これがアベノミクスの効果と言われていますが、これに持続性があるかどうかは疑問です。

しかも国債金利が低いままで推移しているのが本当に上昇しだしたらどうするのでしょうか。

国債金利が上がるということになれば国債価格は暴落するということになり、日本の経済は大変なことになるでしょう。

金融機関や市場は相場の動きがあれば良いのです。その隙きをついて儲けることだけを考えています。

そのような相場に国の将来を賭けるようなことをしてはいけません。

 

安倍内閣は就任直後から東日本大震災の教訓を活かすと称して「国土強靭化計画」なるものを立ち上げています。

しかしその中味は土建投資をすれば発展すると言っているだけのようです。

確かにまた大地震のような災害が来れば悲惨な状況になるでしょう。しかしだからといってとんでもない財政出動をして金をつぎ込めばその方が大変な結果を招きます。

なお、ここに引かれている国土強靭化計画の首謀者とも言える藤井聡さんの本を最近読みました。

そこまで悪いというものとは思えませんでしたが、ただし費用はいくらかけてもという感覚は感じられました。やはり専門バカということかもしれません。

 

 

アメリカの経済はインフレ政策が成功し発展しているということです。

しかし、近年のアメリカ経済では、GDPのうち企業利益の占める割合が上がり続けています。

そして勤労者所得の占める割合は減り続けています。

アメリカは第2次大戦後に深刻な景気後退を6回経験してきました。

しかし、これまでの5回は景気回復の際の売上上昇分を、企業利益と勤労者報酬とがほぼ折半する形だったそうです。

ところが今回はまだ完全に回復しているとも言えないにもかかわらず、企業利益は上がり続けています。

そのため、勤労者報酬はさらに下がり続けています。

 

このような「悪辣」としか言えないのがアメリカ経済であるということです。

 これは大手スーパーのウォルマートの実態を見れば分かります。

ウォルマートの社員の多くは賃金だけでは食べて行けずに、フードスタンプなどの社会保障のお世話になりながら勤めているそうです。このような低賃金で利益を上げているのがアメリカでも有数の優良企業と言われているのです。

 

なかなか見るべき意見が多いと感じられるものでした。

 

デフレ救国論  ~本当は怖ろしいアベノミクスの正体~ (徳間ポケット)

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