爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「食卓からマグロが消える日」良永知義著

著者は水産庁での研究職を経て東京大学に戻り研究を続けている方で、専門は魚介類の病害ですが、養殖技術に関しても詳しいということです。

 

したがって、水産資源の減少の問題を扱っていても養殖に話題が移りがちなのも仕方のない事でしょうか。

 

魚種によっては乱獲により資源が壊滅した例も多くあることは事実ですが、すべての水産資源が危機かというとどうもそうでもないようです。

 

ただし、現在の漁業の状況では、漁獲は競争であり獲ったもの勝ちです。そのために安定的な資源コントロールができないのは確かです。

1970年代から秋田県沖でのハタハタ漁は漁獲高が激減しました。そこで1992年から3年間の禁漁という措置が取られ、その後は資源回復が見られました。どこでもこういった措置が必要なのでしょうか。

 

水産資源というものは以前はほとんど利用されないままになっていました。しかし世界中が水産物の利用というものを始めたために現在では魚類はほとんど限界ギリギリまで獲られていると言えそうです。これを壊滅から救うにはやはりコントロールが必要です。

 

マグロ類の中でも特に問題なのがクロマグロミナミマグロ、いわゆる本マグロという種です。

この本出版当時の数字ですが、全世界での漁獲高がクロマグロでは3万トン、ミナミマグロは1.2万トンでした。そして実にクロマグロの8割、ミナミマグロはほとんど全部を日本だけで消費していたそうです。

大西洋やインド洋、地中海等ではその頃からすでに漁獲制限がなされていますが、それでもその流通量は漁獲制限量を越えていたそうです。つまり産地偽装、過剰漁獲が横行していたわけです。

そのためにさらに厳しい漁獲制限が必要とされています。

 

これに対処するためにはマグロも完全養殖が必要となります。

若い魚を獲って大きくする畜養ということは広く行われていますが、卵から増やすのでなければ資源の回復は望めません。

近畿大学がその技術開発に力を入れていますが、成功はしたものの生産コストが高くまだ広く実施できる状況までは行かないようです。

 

これ以降は実はこの本は養殖技術の紹介が主となっていきます。

この辺が著者の主張したいところなんでしょうか。

 

養殖技術の最近の進歩は大きなものだそうです。

天然物への信仰は止みませんが、寄生虫の危険性も付きまとう天然と比べきちんとコントロールできる養殖物の方が優れているとも言えそうです。

 

というわけで、少し論旨が揺れてしまった本でした。

 

そこはまあ、目をつぶるとしても、内容が簡潔すぎてデータも少なく、どのような読者を想定しているのかが分かりません。

ほとんど知識もない一般人を相手に書かれているのでしょうか。

それにしては薄い本で活字も大きく、内容が少ない中で税抜714円というのは少し高い感じがします。