著者の小川さんは国際交流基金に勤められており、インドやインドネシアでの勤務を長くされてきたそうです。
イスラーム教は中東で誕生しそこから東西へ広がっていきましたが、現在ではヨーロッパに多くの教徒が移住しています。
それとともに、東南アジアにも多数のイスラーム教徒が存在しており、その数は中東地域よりも多いということになります。
現在のASEANの総人口は6億人あまりですが、その4割はイスラーム教徒であり、その大半がインドネシアとマレーシアに住んでいます。
インドネシアでは最近になって急にイスラーム教へ改宗する人々が増えてきたというわけではありません。
以前からずっとイスラーム教徒であり続けているのですが、その性質が変わってきているために周囲への態度も変わってきているようです。
これはインドネシア社会の「イスラーム化」とも言えるものです。
かつては多くのインドネシア人はイスラーム教徒であったのですが、それを社会に反映しようとはしませんでした。しかし最近(ここ20年)にはイスラーム教徒であることを主張しそれを社会に表現しようとしだしたということです。
こういった動きの担い手は貧しいものではなく都市部の中間層、そして若者たちだということです。
これまでは「穏健なイスラーム」と考えられてきました。しかし、覚醒したイスラーム教徒として過激な思想に走る若者も出てきています。
ISイスラム国に共感してイスラーム国家樹立を目指すという過激派も現れ、テロ事件も起こしました。
「イスラーム化」という動きは止められずに加速しているようにも見えますが、それをなんとか過激化しないように抑え、テロの発生を防がなければなりません。
以前のインドネシアはイスラーム教徒が多くを占めると言っても他の宗教信者も多く、また近隣諸国も仏教やヒンズー教などの国もあり、それと共存する「寛容なイスラーム」であったのですが、これも変質する可能性があります。
かつては日本への感情も良く、最大の親日国とも言われたのですが、反日感情も出るようになりました。
中東と異なり多くの宗教が混在する東南アジアであるために、厳格なイスラーム化が進行すると各国間の摩擦増大にも繋がりそうです。
しかし、イスラーム化が強まったとしてもインドネシアは日本と大きな関係を持つ大国です。これと付き合うためにも日本人がイスラーム理解を深めることが必要になるというのが著者の主張です。
距離的には近いのですが意識的にはあまり近づいて考えにくいインドネシアですが、それがイスラム教徒が多数を占めるということによるのかもしれません。
観光で出かける日本人も多いのですが、どこまでこういった事実を理解しているのか、危ういものかもしれません。
とにかく、状況はどんどんと変わっていっているようです。
インドネシア イスラーム大国の変貌:躍進がもたらす新たな危機 (新潮選書)
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