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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

微生物の話 第7回 Aspergillus awamori

気ままなエッセイ 生物

第7回 Aspergillus awamori (アスペルギルス アワモリ)

 

40歳の頃、研究所での仕事も行き詰まり、同期の連中も皆管理職となっていっても自分ばかりはヒラのままという状況で、上司より「酒を担当するなら熊本へ転勤させる」という話が出ました。

研究所に居ても部下もいない部署では管理職にもさせられないという事情もあったようです。

 

家内が熊本の工場のすぐそばの出身で、実家には老親が二人だけで住んでおり心配していたので、仕事の不安はあるものの、転勤を受け入れることとなりました。

 

その工場では、麦と米の焼酎の原酒製造、瓶詰めをやっていました。

とはいえ、その分野の経験はまったく無かったので、最初は技術解析担当、そしてその後品質管理をすることとなりました。

そのあと、管理職にも昇進することができました。

 

焼酎造りは一般的には鹿児島の芋焼酎、熊本(人吉)の米焼酎、大分の麦焼酎と言われていますが、その発展の歴史も色々とあります。しかし、ここでは微生物主体の話なのでそちらは別の機会ということにしておきましょう。

 

焼酎醸造も、アルコール発酵は他の酒類と同様で、Saccharomyces cerevisiaeという酵母を使いますが、特徴的なのは麹の製造です。

この麹菌に、焼酎の場合は「黒麹」(Aspergillus awamori)を使います。

(実際はその変異株「白麹」ですが「黒」で代表させておきます)

日本酒では「黄麹」(Aspergillus oryzae)を使いますが、その差は黒麹が大量にクエン酸を作り出すところにあります。

元々、黒麹菌は沖縄の泡盛製造に使われていた麹でした。それを鹿児島での芋焼酎や人吉の米焼酎製造にも使うようになったのですが、これらの地域は冬場でも気温が高く、発酵中の汚染(コンタミ)が怖れられていました。

そこでクエン酸を作る黒麹を使えば醪が酸性になって汚染菌の侵入を防げるという利点があったわけです。

日本酒の場合は最終段階で圧搾濾過(しぼり)で酒を作りますので、あまり酸性が強いと酸っぱくて飲めませんが、焼酎の場合は最終段階は蒸留、クエン酸は蒸発せずに廃液に残りますので、好都合でした。

 

麹菌の学名、Aspergillus とはその分生子(胞子のこと)の形がキリスト教で聖水をかけるAspergillumという道具に似ていることから名付けられたそうです。

顕微鏡で見ると特徴的な形が印象的です。

コウジカビ - Wikipedia

 

なお、元々の黒麹はその胞子が真っ黒であり酒類製造での麹作りではそこら中に飛び散り大変だったのですが、その色素を作らない変異株が得られ、それを「白麹」と称して使うようになりました。

まあ、胞子は飛び散ってはいることには変わりないのですが、色がなければわからないだけのことでも気分が楽になるようです。

そんなわけで、南九州の焼酎造りではある時代からは白麹の使用が一般的になったのですが、問題は風味にありました。

変異は色素産生だけでなく、少しだけ風味の違いもあったわけです。

 

そのために、黒麹を使うという酒屋もあり、「黒なんとか」という焼酎も作られています。

 

この時期の仕事は、管理職になったということで各地の取引業者などにも出かけて商談ということもあり、忙しいけれどやりがいのあるものでした。

鹿児島や宮崎の焼酎屋さんを訪ねての出張も多く、海岸や山などほとんど観光地めぐりのような旅が印象に残っています。

また、大学生や酒類の関係者などに焼酎製造の講演といったことをする機会もあり、良い思い出になっています。