爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

微生物の話 第5回 Staphylococcus aureus

第5回 Staphylococcus aureus (スタフィロコッカス アウレウス)

 

これは日本名は「黄色ブドウ球菌」です。

ラテン語でStaphylo- はぶどうの房、coccusは球菌、aureusは黄金という意味です。

まあ菌の特徴をそのまま使った名称になっています。

この学名は知らなくても「MRSA」という言葉は知っている人がいるかもしれません。

これは「Methicillin resistant Staphylococcus aureus」の頭文字を取ったもので、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」という意味です。

 

研究所の仕事も3年ほど経った頃に、いきなり上司に呼ばれて外部の研究所への派遣を言い渡されました。

その当時、会社では新規抗生物質の開発を進めており、その一環として抗生物質の効果の検証(殺菌力の評価)を片付けておく必要があり、その専門の研究所へ行くこととなりました。

それまでまったくそういった仕事をしたことも無かったので、行ってみて初めて知ることばかり、かなり戸惑いました。

 

特に、それまでは発酵で微生物の働きでいろいろなものを作り出すという、微生物のプラス面に触れるものだったのが、病原菌といった人間にとってのマイナス面を相手にしなければならない仕事になるということで、ガラリと見る目が変わりました。

 

これは白衣や作業服の考え方とも重なり、発酵をやっている時は服は「汚い人体から微生物や発酵液を守る」ものだったのですが、病原菌を相手にすると服は「汚い菌から人体を守る」ものになります。

場合によっては白衣も使用後に滅菌しなければならないというもので、これも戸惑いの元でした。

 

当時開発中の抗生物質は、特にそのMRSAに効果があるのではと期待されていました。

その方面の試験も行なったのですが、結局は他の抗生物質よりは少しは効果があるが、実際の治療に使えるほどではないという程度のもので、期待はずれに終わりました。

 

ブドウ球菌は本当に顕微鏡で見るとブドウのように見えるものです。

これは菌の細胞の分裂する場所の配置によります。

近縁の菌で「連鎖球菌」という微生物があります。学名はStreptococcus属というもんで、重い肺炎を引き起こす肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)などを含むものですが、これらの菌は分裂し増殖していくと一本の鎖状に伸びていきます。

これは、分裂する場所がちょうど前の分裂箇所の反対側にあるからです。

一方、ブドウ球菌はそれがずれているためにどんどんと房状に広がっていきます。

 

しかし、酵母は培養してもアルコールやエステルなど良い香りの成分を作り出したのですが、こういった病原菌は培養するとひどく臭かったため、大変でした。

ブドウ球菌は足の臭いのひどい人の履いた靴下のような臭いがします。

と言うより、実はそういった人は足にブドウ球菌が住み着いているのでそのような臭いになるというのが正確です。

口臭や体臭も多くは微生物の作り出す臭いに由来するようです。

 

だからといって、よくCMにあるように「菌が居るから殺菌」といったことはしないほうが良いようです。

体の表面などはいくら殺菌しても無菌状態が保たれるわけではありません。表面の菌を殺菌剤で殺すとあっという間に生き残った菌が増殖してしまします。それが無害な菌なら良いのですが、万が一危険な菌が増殖すると危険なことになります。

それよりは多種の微生物が共存している状態の方がよほど安全なのです。

 

この研究所には結局3年余り居ました。赤城山の山麓にありましたが、冬の季節風の寒さはこたえました。