爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

微生物の話 第2回 Streptomyces narbonensis

第2回 Streptomyces narbonensis (ストレプトマイセス ナルボネンシス)

 

アルコール製造を3年ほど担当した後、ちょうどその頃にその工場に新設された医薬品製造部門に配置転換されました。

最初は発酵とは関係のない部門だったのですが、そのうちに場内で移動し発酵生産を担当することとなりました。

 

薬品の中でも抗生物質を発酵法で生産するというもので、そこで使われていた微生物がStreptomyces narbonensis でした。

 

これは原核生物の細菌類の中でも「放線菌」と呼ばれる一群の微生物に属するものです。

放線菌はその細胞構造は原核生物でありながら、細胞の分化が進み、菌糸や胞子といった一見した形状からはカビと同じように見える形態を取ります。

ただし、その大きさはカビとは違いかなり小さいもので、バクテリアの細胞と同じように1細胞は数ミクロン程度のものです。

よく土がカビ臭いと感じることがありますが、実はその正体はカビよりは放線菌による場合が多いようです。土壌中にたくさん住んでおり、有機物を分解する働きをしています。

ただし、土壌中での生存競争は熾烈なもののようで、そのために他の微生物を殺すような物質を作り出して戦おうとします。そのために放線菌は抗生物質生産能力が高く、ノーベル賞を授賞した北里の大村先生も土壌中から生産菌を分離して物質を探し当てました。

 

最初はこの製造部門で、もととなる菌株の管理と発酵生産用の種母作成といった業務を担当しました。

発酵タンクは数十トンも入るような大型のタンクで、そこに培養のための培地(栄養成分を含んだスープのようなもの)を入れて滅菌し、そこに発酵のための菌を増殖させた種母を加えて発酵させるのです。

 

しかし、アルコール発酵とは違いコンタミ(汚染菌による侵入)の危険性が大きく、失敗すれば数十トンの原料をパーにしてしまうこともあるというものでした。

 

アルコール発酵の場合は酵母が増殖力が旺盛で、しかも盛んに自らアルコールや有機酸を作り出すために殺菌性がありあまり雑菌汚染に気を使うことはなかったのですが、抗生物質発酵ではわずかな汚染菌が入り込んでもそれがどんどんと増殖してしまうということが頻発します。

そのために関係するすべての部分の滅菌操作というものが重要ですし、大量の空気を通気しますのでそのエアーのフィルター除菌ということも重要でした。

 

幸いにも担当した期間の間には大きなコンタミ事故はなかったのですが、これは設備が新しくてしっかりしていたという幸運もあったようです。

 

しかし、この業務担当中は手指のアルコールと殺菌剤での消毒を頻繁に行なっていたために、手荒れはしょっちゅうで悩まされました。これはその後も続くことになります。