爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”超”入門 失敗の本質」鈴木博毅著

この本は大東亜戦争戦史を扱った有名な本「失敗の本質」(1984年ダイアモンド社刊行)の解説ということを目標に書かれています。

 

「失敗の本質」は旧日本軍の戦史研究者の防衛大関係者などがノモンハン事件ミッドウェー海戦インパール作戦などの負け戦で何が悪かったのかを解析したというものですが、これが現代の企業経営などにも役立つということで思わぬ売れ行きを示したという本です。

 

しかし、このような軍隊の行動の問題点を指摘したものがどのように経営に役立つのかは現代ビジネスマンには簡単には理解できないということで、本書は経営コンサルタントの鈴木氏に原著出版元のダイアモンド社が彼らにも分かりやすいように噛み砕いて書いてくれるよう依頼し、本になったというもののようです。

 

そのために、原著を引きながら旧日本軍の作戦や組織運営の問題点を指摘し、さらに現在のアメリカの企業の成功例、日本企業の失敗例を挙げて説明するというのが基本姿勢です。

したがって、かなり説明に都合の良いところだけに絞って並べているという観があるのは否めず、「それじゃ、その後のアメリカ軍の惨状はどうなの」とか、「最近のアメリカ企業の実態は」とか、突っ込みたいところは数々ありますが、そのような厳密な議論をするといった性格の書籍ではないようなので、我慢しておきましょう。

 

東日本大震災の後の政府首脳陣の判断ミスを取り上げており、このような危機的状況に対する日本人の弱さは旧日本軍の組織的問題と変わりないとしています。

太平洋戦争初期の勝利で占領地が急激に拡大しそれとともに戦線もインド洋やオーストラリア付近まで広がってしまいました。そこからの敗戦までの急展開は驚くべき速度であり、このような転回点に日本の組織は弱いとしています。

 

このような状況での日本人の弱点は次の7つにあるとしています。

戦略性の不足、俯瞰的視点から最終目標をとらえることが苦手。

思考法の問題点、練磨は得意だが確信が苦手。

イノベーションでは、自分たちでルールを作り出すことができず既存ルールに習熟することだけを目指す。

型の伝承ということばかりに依存していまい、イノベーションの芽をつぶす。

組織運営では現場の活用がまったくできていない。

現実を直視し優れた判断を下すリーダーシップが見られない。

日本的メンタリティーで、「空気」の存在や厳しい現実から集団で目をそらす性質、リスク管理というものの誤解がある。

 

本書はこれらの7つの敗因についてそれぞれの戦時の実例、現代の関連事例をあげて説明しています。

 

石原莞爾といえば満州事変を引き起こした張本人ですが、その後は軍の中枢とは衝突して左遷された軍人ですが、これを本書の冒頭で紹介しています。

彼はドイツにも留学しその実情を調査していますが、その経験から第1次世界大戦でドイツが敗れた理由を、「この戦争は持久総力戦であり、ドイツはその争いに負けた」としています。そして、日本のその後の戦略も「持久総力戦」という発想で考えなければならないとしたのですが、当時の日本軍は「決戦戦争」という時代遅れの観念で固まっていました。

どこかの一戦で大勝すれば有利な条件で講和して戦争終結となるというものですが、すでに第1次大戦でもそのような戦争観は時代遅れであったものです。

 

これは現代のビジネスでも同じような影を引きずっており、日本企業は1点で突破すればすべてうまく行くような発想で事業計画を立てており、全体的な戦略を欠いています。

 

戦争初期には日本軍のゼロ戦はその優れた旋回性能とパイロットの技量で圧倒的な優位に立ちました。

しかし、アメリカ軍はその同じ土俵では勝負にならないと考えるとすぐに戦法を変化させ、空中戦では必ず2機一組でゼロ戦1機にあたり、1機が後ろに回られるとすぐにもう1機がさらに後方に回ってゼロ戦を銃撃するという「サッチ・ウィーブ戦法」に転換したそうです。

これを本書ではアップルのスティーブ・ジョブズの経営戦略と絡めて説明します。

彼は日本メーカーのパソコン性能の高さにはかなわないと見ると、それ以外の魅力というものをパソコンをめぐる全体の中に作り出そうとして成功しました。

 

1942年の珊瑚海海戦では日本軍有利の戦果となりました。

そこでアメリカ軍が取った対応は、一つには戦った現場のパイロットの生き残り3名をすぐに本国に呼び戻しその敗戦の状況をつぶさに聞き取ったということです。

さらに、グラマン社の社長自らハワイに出向き、同様にパイロットたちにインタビューをして日米双方の航空機性能についての現場の意見を活かす方策を取りました。

 

しかし、日本軍ではそのような現場の声を聞いて活かすという組織運営はまったく行われず、実際を知らない参謀たちが実状を無視した戦法ばかりを取っていたためにむやみに犠牲ばかりを増やしたということです。

 

まあ、本書は全編こんな調子ですから、これを参考に会社経営をテコ入れしようとしてもやりにくいかもしれません。

読み物として気楽に読むのがよいというところでしょうか。

 

「超」入門 学問のすすめ

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