爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「植物が出現し、気候を変えた」デイヴィッド・ビアリング著

生物出現以降、多数の化石が残され、それを見ると今の生物とはまったく異なる形状、大きさのものがあることが分かりますし、様々な証拠からこれまでに何回もの大量絶滅という事件が起きたことも判ってきました。

 

こういった現象が起きた理由はこれまでは地殻変動や大規模な環境異変など、地学的な現象が主原因と考えられてきましたが、著者のビアリングはこの大きな要因として、「植物の進化や分布」が大きく影響を与えたということを主張しています。

 

「もしも地球上に植物が無かったら」様々な地学的変化が起きたとしても地球の歴史に見られるほどの大変化にならなかったのではないか。そう想像してみると植物というものが繁茂したことによる結果としての大変化ということも言えるということが分かるようです。

 

現在の地球では陸上や海上の多くを植物が覆っており、大気中の二酸化炭素を使って一年あたり1050億トンものバイオマスを合成しています。

合成量の半分は陸上の植物によるもので、しかもこれまでに合成され地中に埋もれたバイオマスは陸上植物によるものが総量の90%以上を占めています。

陸上植物の光合成を担っているのは「葉」であり、地球の陸地表面の75%は植物の葉に覆われています。

 

植物の先祖が陸上に進出し始めたのは今から4億6000万年前でした。

そしてそれから6500万年の間、陸上で植物は爆発的な進化と多様化を繰り広げます。これを5億4000万年前の海中での動物の進化(カンブリア大爆発)になぞらえて「植物のカンブリア大爆発」と呼ぶ人もいます。

この期間の間に植物は様々な進化をとげ、多様化していきました。

 

この期間の環境はどうであったかということを調べると非常に特徴的なものが現れます。

最初の時期には二酸化炭素濃度が現在より15倍も多かったのですが、それから4000万年経った頃にはその濃度が10分の1に激減しているのです。

これは植物の大繁茂によるものでした。

植物の化石を調べてもこれが立証できます。初期のものは葉の気孔の数が少なく楽に二酸化炭素を取り入れていたことが分かりますが、後期になると気孔が大幅に増加し、二酸化炭素が少なくなっていたことが植物の進化による対応として現れてきます。

 

植物が光合成により二酸化炭素を取り込み植物体を形成しますが、いずれは死んで分解され二酸化炭素を大気中に戻します。

しかし、数百万年もかかる「別の」炭素サイクルが存在します。

火山が噴火して地中奥深くから大気中に二酸化炭素を放出します。この二酸化炭素は大気中で雨に溶け弱酸性の炭酸となり、珪酸塩の岩を溶かして重炭酸塩などを川から海へ流しだします。

海では重炭酸イオンを身体に取り込む海洋生物によって体の殻となり、それが海底に堆積します。炭酸カルシウムの塊となったこれらの鉱物はやがて再び海底から地中に地殻変動で埋もれていきます。

これも重要な炭素サイクルです。

 

現在の大気中では酸素濃度は21%であり、それに変動は起きないとされています。

しかし、これまでもずっとそうであったかというとそれは違います。

約3億年前には酸素濃度は30%にまで上昇していました。

それがその時代の生物の巨大化を促しました。

そして、その後その濃度が一気に15%まで下がってしまいます。これにより巨大化生物は死に絶え、低酸素状態でも生きられる生物のみが生き延びました。

 

この過程にも植物が影響を与えたようです。

この時期を「石炭紀」というように、この時期に陸上で大繁茂した森林は分解せずに地中に埋もれ大量の酸素をそのまま地中に封じ込めたわけです。

その時期の直前までに、植物はリグニンという分子を合成する能力を獲得し、植物の構造を変えて高い樹木となって光合成に有利になるようになりました。

しかし、その当時の微生物などではそのリグニンを分解することができず、そのまま腐らずに埋もれてしまい大気への循環が途絶えてしまいました。

 

化石を調べていくと、同時期に多くの生物で異常な形態が見られる時代が存在します。

これにはオゾン層の破壊とそれによる紫外線増加のために遺伝子異常が大量発生したと見られるそうです。

2億5100万年前のベルム紀の末期に起きたのもそのようなオゾン層破壊だったようです。

ただし、これは現在問題となっているようなフロンガス増加という理由ではなく、火山活動の劇化で大量の塩素などが大気中に放出されたためのようです。

 

この火山噴火はそれに続くジュラ紀などの恐竜の時代での二酸化炭素濃度上昇による温暖化を招きました。

二酸化炭素濃度はわずか数十万年の間に3倍になり、気温も8℃上昇しました。

これにより植物も巨大化し大繁茂し、それを食べる恐竜も巨大化しました。

こういった二酸化炭素放出をした火山噴火というものは、驚くほど大規模なものであり、20万年ほどの間に200万立方キロメートルの溶岩を噴出したものです。

この大噴火でその当時のパンゲアという大陸が崩壊し今に続く大陸の形状の元となったようです。

 

植物が地球環境に及ぼす影響の中では、陸の岩石を風化させる効果を増強しその成分を溶かし出す速度を増すということや、有機物を堆積させ地中に埋もれさせるということの他にも、大きな温室効果をもつ「水蒸気」を大気中に放出するという効果があります。

二酸化炭素を植物中に取り込むことでその大気中濃度を下げて温室効果を減らすとともに、水蒸気を放出して温室効果を上げるということも同時にやっていることになります。

それがどのように効いてくるのかは様々な条件で異なるようです。

 

他にもまだ解明されていない植物の役割があったようです。それは化石の中に残されているのですが、さらに科学の力で調査研究していく必要があるようです。

 

植物が出現し、気候を変えた

植物が出現し、気候を変えた