どうもこの方の本はアクが強すぎて読んでいると悪酔いしそうな気分になるのですが、題名に惹きつけられて手に取ってしまいます。
三橋さんの著書は多数出ていますが、これらを読む読者層というのは、推定ですが大学は一応卒業して就職してサラリーマン、政治や経済のこともほとんど知らないが最近は何かこの国の有り様というものがおかしいのではないかという疑問を持ち出したといった人々ではないでしょうか。
普段は週刊誌か雑誌程度しか読まない彼ら向きに、扇情的な文章と分かりやすい章立てでアピールしていますので頭には入ってきやすい(通勤途中に読める)ように感じます。
まあ週刊何とかを読んでいるのよりは少しはマシに見えるかも。
さて、本書ですが2012年の出版ですので民主党内閣がTPP参加を決めた直後くらいの時点の記事でしょうか。
TPPに端的に現れるグローバル化というものが、実際はどういうものか、誰を利するものか、その結果はどうなるかといったことを描写しています。
またそれと同時に、脱グローバル化で自国の雇用と所得を増やし経済成長を果たすことが繁栄につながるという持論を繰り返し執拗に語っています。
グローバル化というものは世界的にコスト最適(つまり人件費が安いところ)に生産を移行させ、グローバル企業本社だけが栄えるという、国や国民にとっては何のメリットもないものであり、それを推進することは決して日本などの先進国にはためにならないという主張はもっともです。
現在は「第二次グローバリズム期」であるそうです。
第一次はいつかというと、第1次世界大戦後でした。貿易を拡大し資本移動の自由も確保して世界各国の経済的な結びつきは強まったのですが、結局は大恐慌で泡と消えました。
今回の第二次はそれよりはるかに大きな規模で資本移動が進んでいます。
しかも今回は製造業の投資ばかりか証券投資も自由化したために「国民経済」と「企業経営」がすっかり乖離してしまいました。
グローバリズムの下では「国民の所得を増やす」ことが行われないわけではありません。しかし、その「国民」がどこの国の国民かも分からなくなります。
そしてそれは大抵は所得水準の低い国に流れていくことになります。つまり、グローバリズムによれば先進国の庶民が一番悪影響を受けることになるということです。
グローバリズム進展の中では法人税の減免ということも広く行われます。法人税の安い国に企業が移りやすいということが起きるためでもありますが、法人税を安くすることで企業投資を促すという狙いもあってのことです。
しかし、その企業投資がその国に行われるとは限りません。いや実際はほとんどが海外に投資されるのが現実です。
このためにはもっと厳しくコントロールして自国内に投資をする場合に限って法人税を安くするという制度が必要ですがそこまで踏み込む気はなさそうです。
グローバリズムの犠牲者として、この本出版当時には大きな話題だったギリシア破綻について触れられています。
ギリシアでは公務員が過剰であり年金も多く、そのような放漫な社会制度が破綻の原因だとされています。
しかし、その実はEUという超グローバリズム先取りのような組織(域内での関税完全撤廃、共通通貨ユーロの採用により為替調整も無し)に加入したことにより、ドイツやフランスからの製品輸入に圧倒され国内産業の発展ということもできずに雇用が失われ、その結果失業者が増加して否応なしに公務員増加と社会保障費増加に追いやられたというものです。
ギリシャ人が怠け者だからこうなったというような批判がありますが、実はギリシャ人の労働時間はドイツ人よりははるかに長いというのが実状であり、実際は働いても給料が安いという状況に追い込まれてしまっています。
グローバリズムの世界への展開というのはこのようなギリシャの悲劇を全世界に広げることでもあります。
スペインにおいてもギリシャ同様に産業の海外流出が激しくなり国内での雇用がなくなり転落するばかりです。
つまり、TPPなどのグローバリズム展開の策は「黒字国はより黒字に、赤字国はより赤字に」ということを進めるばかりだということです。
こういった事態はこれまでも多くのところで見られたことであり、明治維新後の日本も条約改正を求め続けました。
19世紀インドはその犠牲となりました。
そういった事態をこれからも続けていこうというのがグローバル化ということの正体です。
このような本書のグローバリズム批判は納得できる論拠があり、賛同できるものでした。
しかし、本書で著者がもう一つ強調しているのは、デフレ脱却しインフレ政策を実施して所得を増やすのが絶対必要策であるという主張です。
このためには財政再建策に囚われるあまりに国債発行を抑制しようとするような論者を手ひどく批判しています。
このあたりの論調は読者層に対する受けを狙っているのか、やや品に欠けるものであり、ポピュリズム的手法を感じるところです。
財政再建も経済成長により収入を増やせばよいという論調であり、それ以外の道は誤っているとして批判しています。
これにはちょっと同意しかねるところです。
「経済成長が難しい」という観点がまったくありません。
私がこれまでに疑問を投げかけているのもこの点です。
現在は「資源」「環境」の制約が強くなってもはや経済成長はできなくなったのではないか。
それが一番考えるべきことではないかと思っています。
したがて、本書評価も前半は納得、後半でガタガタといったところでしょうか。
ただし、前半部のグローバリズムの正体の暴露といったところは間違いのない議論であり、価値あるものと思います。