爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アメリカよ、美しく年をとれ」猿谷要著

著者は1923年生まれ、戦争中に旧制高校、敗戦直後に大学に進み英語を専攻し、その後アメリカに渡り調査研究をされたそうです。

 

「アメリカかぶれ」のアメリカ礼賛かと思って読み出したのですが、実はこの方はアメリカにおける黒人やネイティブアメリカン(インディアン)、ハワイ王国の併合などについても現地で詳細に研究を重ねたという、なかなか興味深い立場で考えられている方です。

本書は2006年の出版で、当時はアメリカはまだブッシュが大統領にあった時代です。世界中から嫌われているといった状況で、だからこそ「美しく年を取れ」と言いたかったのでしょうか。

 

どのような文明でもいつかは力を失います。

アメリカは特に第2次大戦後は超大国として世界に君臨し、ソ連崩壊のあとは唯一のものとして世界的に覇権を得たようです。だからこそいつかそのうちには没落していくのでしょうが、このままでは「嫌われたまま」のようです。

アメリカの恥部に深く洞察を加えてきた著者であっても、やはりアメリカを愛しているのでしょう。そうなっては欲しくないという気持ちの現れだったのでしょう。

 

著者は旧制高校卒業じに学徒出陣し、飛行学校に入り特攻隊にも志願しています。もう少し終戦が遅れれば生命はなかったかもしれません。

しかし思いがけず生き残って大学に復学ということになりましたが、そこでどの学科を選ぶか迷った挙句東京帝大西洋史学科に入ります。

そこではアメリカに関する講義などはなかったのですが、どうしてもアメリカを扱いたく考え、卒論には「奴隷解放史」というものを選びます。

それがその後の研究にも活かされることになります。

 

大学卒業後、大学院に進んでもこのテーマで調べていったのですが、調べるほどにアメリカでの黒人の過酷な運命を知ることになります。

さらにインディアン(ネイティブアメリカン)を追い払った過程についても知ることになります。

 

そこで白人社会が繁栄をしていった1930年代には大恐慌がアメリカを襲います。多くの人々が職を失いましたが、その後の第2次大戦で軍需産業が活気を取り戻しました。

戦争でアメリカの産業が活性化するというのが現在につながる帝国主義化の要因であったということです。

 

戦後しばらくは繁栄が続くことになるのですが、その結果人々のリベラル化が進みます。

その雰囲気のなかで黒人の権利主張も強くなり、キング牧師の活躍もありますが、そのキング牧師を始めとして、ケネディ兄弟、マルコムXなどが相次いで暗殺されたのもアメリカならではです。

さらにベトナム戦争の敗北、アメリカに暗い影がさします。

 

1980年にレーガンが大統領となりました。彼は軍事費の大幅増額を成し遂げました。

彼の政策はその後のアメリカ全体の性格を決定したと言ってもよいのです。

ラルフ・ネーダーが言ったように、「レーガンの政府は富めるものの政府」だったのです。

その政権には労組指導者もマイノリティも、環境主義者も入れません。企業やエリートの価値観のみに支配されました。

 

東西冷戦はソ連の崩壊でアメリカが勝ったかのように宣伝されましたが、その軍事費増大でアメリカは最大の債権国から最大の債務国になってしまいました。

どう見ても米ソ相討ちといったところでしょう。

9.11テロが起きた後、アメリカ人の多くは報復のためにテロと戦うと誓いましたが、「なぜアメリカが狙われたのか」を考える人はほとんどいませんでした。

本当はそれを一番考えなければならないのに。

その後の「テロとの戦い」はやればやるほど憎しみを増すばかりになっています。

ここまでアメリカが憎まれ嫌われるようになったのは、やはりブッシュが大統領となった2001年からのことのようです。

ブッシュは就任直後に京都議定書からの離脱、核兵器制限条約からの脱退、生物兵器禁止条約も不参加とし、一国中心主義に傾斜しました。

絶頂に達した国が陥る傾向をアメリカは明らかに示しているというのが著者の指摘です。

 

アメリカを愛しているからこそ、そしてアメリカを熟知しているからこその著者の指摘は10年以上たちオバマ政権が終わりトランプ時代が始まる現在、ますます重要性をましているようです。

 

 

アメリカよ、美しく年をとれ (岩波新書)

アメリカよ、美しく年をとれ (岩波新書)