温暖化の影響ということが過度なほどに言われていますが、これまでも大きな気候変動は何度も起きています。
しかし、著者の筑波大学名誉教授の吉野さんによれば、歴史学者たちが歴史を研究するに際しては史実の解明・解釈において気候条件にまったく触れていない場合がほとんどであるようです。
むしろ、気候は変化しないものと信じているか、あるいはそう仮定しているかのようです。
かえって、「気候と人びと」という問題を取り上げるとそれは「環境決定論だ」という反発を受けるとか。
このような学界の風潮に対して、どれほどまでに日本の古代史に気候の変動が影響を及ぼしているかを見せてやるというのが本書の執筆立場のようです。
ただし、このようなことを取り上げるについては最近の「歴史気候学」の発展があればこそのことです。
日本ではこの分野の研究者は非常に少ないということですが、それでもいろいろな手法を使って気候変動の証拠を確かめる研究が進んでくるようになりました。
縄文時代以降をとっても、早期の縄文海進と言われる高温期、中期から寒冷期、弥生時代まで寒冷期が続き、古墳時代にはいって古墳寒冷期、奈良・平安時代には温暖期と言われています。
縄文時代後期からの水稲栽培の広がりにもこのような気候変動が関わってきます。
熱帯植物の稲が寒冷期にも北上するのはなぜかと言われますが、実は寒冷期に海岸線が後退すると湿地が増加し稲が作りやすい地形になるという状況があったようです。
もちろん、このような気候変動は日本だけでなく広く世界中で起きていますが、特に東北アジアの乾燥地帯ではその影響も強かったようです。
比較的冷涼であった300年から630年頃には北西からの遊牧民の侵入が激しかったのは歴史的に残っている証拠です。
農耕社会になり耕作地居住地の固定化が進むと寒冷化というのは作物の凶作から飢饉となりやはり危険なものだったようです。このために社会不安が起き政治の動揺も起きました。
このような社会の動きにははやり気候というものは大きく影響を与えたものでしょう。