著者は地球科学専門ですが、その中でも特に生物関連が主のようです。
地球温暖化といった地球環境について話題が尽きないようですが、それは実は生物の活動と大きな関わりを持っています。
そもそも石油や石炭といった化石燃料も生物活動の結果生まれたものですし、それを使い果たそうとしているのも人間の活動です。
このようにエネルギー問題というのも実は生物活動と大きく関係しているものです。
このような観点から地球科学というものを捉え、新書版ということなので広く一般の人にも分かりやすいように書かれているもので、ある程度はその意図が成功しているように思いますが、表題の「地球のからくり」に挑むというものは、やや内容とそぐわないように感じられ、読んでもらいたい読者層に届いたかどうか危ぶまれるものかとも思います。
最初の章はエネルギーを大量に使っている現状を分かりやすく説明されています。
現在の日本人は一日あたり30万キロジュールのエネルギーを使っています。
人ひとりが一日に食べる食物はエネルギーに換算すると約1万キロジュール(2400キロカロリー)ですから、その30倍以上のエネルギーを使っていることになります。
これは、人間の労力だけで動いていた昔の基準から言えば、一人につき30人の奴隷を使っているようなものです。
実はこのようにエネルギーの大量消費が始まったのはせいぜいわずか150年前からのことです。
ヨーロッパに発する石炭石油を使う産業革命が波及してこのようになってしまいました。
もともと、生物が食べたり食べられたりする食物連鎖というものは、実は「エネルギー連鎖」でもあります。
太陽が地球にもたらすエネルギーは1平方メートルあたり毎秒で平均1.4キロジュールです。これは地球全体で言うと毎秒170兆キロジュールになります。
現在の人類の消費エネルギーはそれと比べればまだ1万分の1にすぎないものです。
この太陽エネルギーを地上の植物は「光合成」という過程で固定化します。
それは地球全体で言えば毎秒1000億キロジュールに上り、一年にすれば300京キロジュールに相当します。
これを基に動物を含めて生物は暮らしていくことになります。
人類が文明化する以前の今から1万年前には世界の人口は300万人程度でした。そのくらいであれば生物間のバランスを崩すことなく共存していたのですが、その後爆発的に増加した人口のために、人類が食べる食物だけで年間2京キロジュールになっています。
これは光合成で作られた有機物300京キロジュールのうち、草食動物の取り分の30京キロジュール、さらに肉食動物の取り分の3京キロジュールと比較すると過大なものとなってしまいました。そのために多くの野生生物が消滅していきます。
この大きな要因は農耕技術の発展にあります。多くの原野を開墾して農地とし、人工的に農産物を作って食べて人口を増やしていきました。
さらに、これには窒素肥料というものが大きく関わってきます。
農作物の増収には肥料、とくに窒素分を大量に投入しなければなりません。
近代になりグアノという鳥の糞などからなる肥料がペルーで発見されそれを投入することで農業生産の拡大が成功しました。
しかし、グアノ資源も枯渇に向かうことになりましたが、その頃にドイツのハーバーとボッシュという化学者がアンモニア合成技術を開発し、それを使って化学肥料の生産が大量にできることになりました。
農業生産の飛躍的な拡大にはこれが大きな意味を持っています。
ただし、「忘れてはいけない」こととして著者が強調しているのは、この方法でアンモニアを作り出すには大量のエネルギーが必要だということです。
この反応には高温高圧が不可欠です。このために石炭や石油のエネルギーを使っています。現在、世界中でアンモニア合成のために使われているエネルギーは年間5000兆キロジュールにも上っています。これは大型原発150基の生み出すエネルギーにあたるそうです。
現在の世界のエネルギー状況は、2008年において年間52京キロジュールになります。
このうち石油・石炭・天然ガスのいわゆる化石燃料が80%を占めています。
残りのわずかな部分が原子力、水力、バイオマス等のエネルギーとなっています。
化石燃料の存在自体は古代から知られていました。しかし、それが本格的に利用されるようになったのは産業革命から後のことです。
石炭、石油といった化石燃料を利用することで経済的にも軍事的にも優位にたった西欧文明が世界を席巻していきました。
石炭は3億年ほど前に地上を覆っていた森林が土に埋もれ泥炭となりさらに石炭となって出来上がりました。石炭は石油と異なりほぼ炭素になっているものです。
石炭の上質のものでも1kgあたりのエネルギーは3万キロジュールであり、これは石油の半分以下しかありません。
このエネルギー密度の小ささが石炭の欠点ですが、世界中に広く分布することなど長所もあるために発電燃料などに広く利用されています。
石油は1億年ほど前に水中に多く分布していたプランクトンが大量に発生し、それが死滅して堆積し地中で変性しました。これは実は現在でも発生している赤潮という現象と同じようなものです。
石油に含まれている炭化水素などの一部は地球の奥深くで無機的に生成したという石油無機起源説というものの唱えられました。
しかし、そのような無機生成された炭化水素もごく一部は含まれていると考えられても、現在の石油の大部分はプランクトンからできたという有機生成説が現代の主流説となっているということです。
原子力発電に使われている核エネルギーというものは、太陽エネルギーではなく地中に隠されているものです。核分裂によるエネルギー発生というものはごく最近まで知られていなかったものですが、20世紀になり急激に研究が進み、核爆弾としての使用が先に行われ、その後原子力発電への応用が始まりました。
これまでも数々の事故が発生していましたが、福島での事故は大きな意味を持つかもしれません。
このように、現代のエネルギー社会を支えているものがこのような地球の歴史によって作られたものだというのが本書の表題の「地球のからくり」だということです。
このまま続くとは思えないのですが、著者はあせることはないからよく考えろと書かれています。
私はなるべく早く考えないと間に合わないと思うのですが。