日本には五穀豊穣や大漁祈願、家内安全、厄除け、病気平癒などを願って食べ物を頂くという祭りが数多くあるようです。
著者の吉野さんはこういった「まじない食」というものが大好きなフリーライターということで、全国どこかにこういった祭があると聞くと出かけていって取材をするということを重ねてきたそうです。
詳しく紹介されているのが12箇所、その他に巻末に数行だけ紹介されているのが21箇所あるのですが、そのほとんどが聞いたことが無いというものでした。
やはり本当に地元だけで祭られている地方の催事なのでしょう。
ちなみに、聞いたことがあったのは能登の「あえのこと」と熊本県八代神社の氷室祭だけでした。
京都市西賀茂の神光院という真言宗の寺院で開かれるのは「きゅうり封じ」です。
夏に多い病気をきゅうりに封じて土に埋め無病息災を願うというものだそうです。
福岡市東区奈多の公民館で開かれるのは「早魚(はやま)神事」というものです。
地区別に別れてそれぞれが大鯛を料理し、その速さを競って勝った方がその年の漁業権を得られたという歴史があるそうです。今では漁業権争いは無いようですが、神事だけは残っています。
さばいた鯛は切身にして配られるのですが、それを食べると安産になるということです。
埼玉県狭山市の入間川諏訪神社に伝わるのは龍神様のナスを夏の毒消しとして食べる風習です。
それだけでなく、厄除けの大ナスを載せた神輿を担ぎます。
他にもいくつもの祭があるのですが、どこでもその後継者が不足していて、祭が続いていくのか難しいものも多いようです。
十年、二十年先にも同じような祭ができるのかどうか、危ないものもありそうです。
全国に名を知られるような大きな祭は継続しようという力も出るのでしょうが、こういった地方の小さな祭はそこまで大切なものとは考えられていないのでしょうか。
庶民の素朴な願いを表す祭というものには残ってほしいと感じます。