朝日新聞社と集英社が共同で開催した「本を新聞の大学」という公開セミナーの、第3回目、2014年の「10年後を考える」という統一テーマでの講義録です。
モデレータとして、朝日新聞の一色清氏と東大名誉教授の姜尚中氏の2人が登場し、全部で8回の講義には佐藤優、宮台真司、上野千鶴子といった錚々たるメンバーが講師を勤めています。
第3回 高齢化社会と日本の医療 上昌広
第4回 沈みゆく大国アメリカと日本の未来 堤未果
第5回 感情の劣化が止まらない 宮台真司
第6回 戦後日本のナショナリズムと東京オリンピック 大澤真幸
第7回 2025年の介護 上野千鶴子
といった内容です。
それではこの中から特に興味深かったものを取り上げます。
上昌広さんの高齢化社会と医療という問題では、今後さらに高齢化が大きな問題となる中で、医師が本当に足りるのかということが紹介されています。
実は、数だけは足りるように見えても「高齢医師」が増えてくるということです。
2035年には医師数は2010年の25万人余りから40万人弱にまで増加する計算ですが、その増加分のほとんどは60歳以上の高齢医師が占めているという状況です。
医師の過重労働は問題ですが、高齢の医師の場合はそれも不可能ですので実働数が減少することになるようです。
また医師や看護師は全国で平均的に分布しているわけではありません。
医師が多いのは東京などの都会というイメージがありますが、実は東京は確かに多いもののそれ以外の東日本は人口あたりの医師数が少なく、西日本が圧倒的に多いようです。
なお、医師はまだ転勤という形で分布の是正ができますが、看護師は多くが女性であり、そのような転勤は難しいために簡単には分布を変えるわけには行きません。
看護師不足の方が深刻度が高いようです。
こういった医師の偏在というものは実は明治維新の時の幕府側と官軍側の藩の分布というものと関わっており、官軍につかなかった地域にはその後総合大学や医学部の設立が遅れたからということです。
堤未果さんのアメリカについての話では、オバマケアと言われるオバマが導入に積極的であった国民皆保険制度が取り上げられています。
アメリカでは2億人の国民のうちの5000万人は医療保険に入っていません。
実は、それ以外にも保険を持ってはいるものの、安い保険で高額医療はできないという「低保険者」という人々もかなり居るということです。
彼らを救済するということで、オバマが大統領となって医療保険改革法、いわゆる「オバマケア」を導入することになりました。
しかし、この実態は「国民民間皆保険制度」であり、国が保険制度を作るわけではなく民間の保険に全国民を強制的に入らせるという制度だということです。
これまでは重病患者や高齢者は保険会社が加入を拒否していましたが、それができなくなり誰でも入れるようになりました。しかし、その結果保険会社は保険料の値上げという手段に出て、これまでにかなりの引き上げになっています。
他にも悪影響が頻出しており医療の混乱は広がるばかりだそうです。
宮台真司さんは「感情」というものの劣化ということを話しています。
2011年以降、「絆」というブームが起きました。しかし、その奥には「いざという時には自分が助かるために絆を道具にしたい」という思いがあり、ナンセンスだということです。
現代社会では民主制がもはや回らなくなっています。これも「感情の政治」つまりポピュリズムが横行しているからです。
政府は貧困家庭を助けるべきかという質問に対し、ヨーロッパでは助けるべきでないという意見は10%、アメリカですら28%なのに日本では38%がそう答えているそうです。
これを宮台さんは「見ず知らずからなる我々」というものが日本では崩壊しているとしています。
他にもなかなか刺激的で興味深い話がいろいろと出てきました。