爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「永続敗戦論 戦後日本の核心」白井聡著

2013年に出版され、大きな話題になったということですが、全然知りませんでした。

たまたま図書館にあった、小川仁志さんの「脱永続敗戦論」という本を読み、それで初めて元の「永続敗戦論」の存在を知ったという、迂闊さです。

 

「脱永続敗戦論 民主主義を知らない国の未来」小川仁志著 - 爽風上々のブログ

検索すると多くの書評が出ていますが、もちろん本書はかなり過激な内容ですので、激しく反発し、攻撃している人もいるようです。

しかし、私の読んだところではこの本に書かれている内容はごくまともで素直なものであり、それを簡潔にかつ言うべきことを充分に言ったという、優れたものに感じました。

 

日本の右派勢力は「戦後」というものに対する批判を繰り返しており、戦後政治の総決算(中曽根)戦後レジームからの脱却(安倍)といった方針を示しながらこれまでのところそれには成功していません。

著者の見るところ、この「戦後」という枠組みを継続させることによって日本の保守勢力の権力独占が続けられており、それを総決算してしまってはその独占も崩れてしまいかねないからだそうです。

 

「敗戦」したことにより、アメリカに対して政治・経済・軍事の従属構造ができてしまいました。

その構造の中で権力を握り続けてきたのが保守勢力であり、それを壊しかねない戦後の否定などはできないでしょう。

「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる」状態を著者は「永続敗戦」と呼んでいます。

 

これは言い換えれば、彼らの信念を通すことを突き詰めればポツダム宣言受諾を否定し、東京裁判を否定し、サンフランシスコ講和条約も否定することになるが、それができない彼らは国内およびアジアに対しては「敗戦」を否認して見せながら、自分たちの勢力を容認してくれるアメリカに対しては卑屈な臣従を続けるということです。

 

永続敗戦という歴史認識が明瞭に表れているのが領土問題です。

日本は3つの領土問題を抱えていますが、それを争う証拠として古文書や古地図を持ち出しています。しかし、著者の見るところ、これらの領土問題はすべてポツダム宣言受諾からサンフランシスコ講和条約で決まっていることであり、そのような古文書は関係しないということです。

しかし、問題を複雑にしているのが関係国のうち、中国と韓国はサンフランシスコ講和会議に参加できず、ソ連は条約に調印しなかったことです。

その後、各国との個別協議で領土問題を話し合うこととしたのですが、それを満足に行なってこなかったわけです。

 

このような「永続敗戦」という状態がこれほどまでに長く続いている理由の一つには、「平和と繁栄」というものが得られたために、それがこの状況のおかげであるという観念にほとんどの人が支配されてしまったからでしょう。

それは戦後日本が軍事費をほとんど使わなくて済んだために経済成長に使うことができたという、よく言われる根拠の一因かもしれませんが、それは実際は主因とは言えないでしょう。

しかし、いずれにせよその「繁栄」というものはすでに過去のものとなり、さらに「平和」も急激に脅かされる事態となっている今日において、その「対米従属による永続敗戦」ということがどのようになるのか、予断を許さないもののようです。

その議論の中で自主防衛論や核武装論までが飛び出してくるわけですが、これらの理解のためにもこれまでの永続敗戦状態の正確な認識が必要となります。

 

敗戦により「国体」は危機に晒されたのですが、天皇による終戦の主導とその後の占領軍との交渉により、象徴天皇制という形ですがとりあえず「国体護持」には成功したました。

それを急いだのも、国民の側からの革命の勃発を最も怖れていたからだということです。それを避けるためであればアメリカ側の言い分は最大限に受け入れるということで敗戦後の体制も決まっていきました。

安保条約締結の際もできるだけ日本側に有利になる交渉もありえたのですが、ほかならぬ昭和天皇自身が共産主義勢力の伸長を防ぐために米軍の無期限駐留を希望したという形跡が見られるそうです。

 

結局、天皇制の維持のために永続敗戦という論理が形作られ、それを続けていくために対米従属が国策となって続けられており、それを体現するための政権がずっと続いているという解釈でしょう。

 

こう考えれば分かりやすいという方法は、真実というものとは異なる可能性もありますが、的中ということもあるものでしょう。

私も対米従属というものがなぜこのように蔓延する日本になってしまったのかということについては色々と考えていましたが、すっきりとした説明で分かりやすいものであったのが本書であるということと思います。

 

この本について激烈な批判を繰り広げている人たちは結局自らがそちら側の人間であるということを示しているのでしょう。