宮城谷さんの本は最近はあまり読んでいなかったのですが、久しぶりの未見のものです。
これまであまり小説などの題材となったことはないので、その経歴やエピソードもあまり知りませんでしたが、唯一知っていたのは「仕官するなら執金吾、嫁に取るなら陰麗華」という言葉くらいでしょうか。
漢の皇族の一門でもあり、坊っちゃんだろうという感覚はありました。
宮城谷さんは史実はあまり曲げずにそれ以外のところだけで描写をふくらませますので、基本的には歴史通りと思いますが、どうやら劉秀という人は皇族とは名ばかりで生活にも困るほどの貧しさの中、人望を集めながら勢力を強めていったようです。
しかし、王莽の新の王朝はすぐに行き詰まり不穏な情勢になるとかなり早い時期に劉秀は兄たちの挙兵に参加します。
そのためにまだかなりの勢力を保っていた政府軍により親族の多くを殺害されるということになりますが、類まれな人望で優れた人材を集め、危険な場面も乗り切り後漢王朝の再興を成し遂げることになります。
このような成し遂げた英雄という人には後からどんどんと話が作られ、産まれたときから神秘的な予兆があったとかいうことはいくつも作られていくわけですが、宮城谷さんは実際の劉秀は本当は「そのような奇瑞にめぐまれない、どこにでもいそうな勤勉でちょっとはにかみ屋の青年ではなかったか」と思いこの小説の筆を執ったということです。
そのような平凡なものが「百万の敵兵にもたじろがず、寡兵を持って大軍を破ったばかりか、敵対していた者を次々と宥して王となり皇帝となっていったことに驚かぬ人はいなかったろう」ということがこの本の主題かもしれません。
なお、あとがきの最後にあるように、劉秀光武帝の晩年の崩御の寸前に貢献の使いを遣わしたのが倭の奴国王でした。日本ともわずかに関係がある人でした。