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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「湾岸産油国 レンティア国家のゆくえ」松尾昌樹著

湾岸産油国というと、クウェイト(クウェートではないそうです)、カタル(カタール)、バハレーン(バーレーン)、UAEアラブ首長国連邦)、オマーンを指します。

 

これら5国はいずれも君主制であり、石油の産出国で石油代金で国家運営をしています。

著者はこれらの国々を研究しているために、大学の講義や講演会でその内容を話すことが多いそうですが、その聴衆の中から必ず聞かれることが「ところで、湾岸産油国君主制はいつまで続くのですか」ということだそうです。

この問いが当然のように為されるということは非常に大きな問題を含んでいます。

 

アメリカの現代政治に関する講演を聞いた人が「オバマの政策は分かりました。それでアメリカの大統領制はいつまで続くのですか」と聞くことはまずありません。

それだけ、湾岸諸国の君主制というものが西側民主制価値観と大きく異なるということを示しています。

 

湾岸産油国君主制と言っても他の国々とは少し異なり、著者の言う「王朝君主制」という形態を取ります。これは、支配家系の構成メンバーだけが支配層となり、その中から君主を選び主要閣僚もその家系の中からだけ選ばれるという制度です。

さらに、その国の国籍を持つ国民というものも、それほど多数に上るわけではなく少数です。

その他の大多数の労働者はアジアやインド、近隣のアラブからの出稼ぎ者が占めています。その割合は非常に多く、クウェイトで60%、UAEでは80%にも達しています。

 

これらの産油国を「レンティア国家」と呼ぶのは、べブラーウィー、ルキア-二が名付けた書籍で使われたのが始めだそうですが、「レント収入」で暮らすもの、すなわち労働の結果の所得ではなく不労所得で暮らす国家というものを指すという意味です。

莫大な石油売却収入で国家運営をしているために、国民からの税金徴収ということもせず、逆に国民に対する利益供与が常態化しています。

そのために、支配家系以外の国民であっても大きな利益を得ているために政府に対する反抗をすることが無く、政府が安定しているというわけです。

 

このような国家というものは世界的に見ても非常に珍しい状態であり、アラブでもイランやイラク・エジプトなどでは王朝が崩壊したのと比べて確固たる君主制が保持されているという特性を持っています。

 

これは「社会が発展すれば民主化が進行する」という一般的な西欧型の観念からは大きく異なった状態です。しかし、民主化などしなくても安定しているというのは事実であり、まだ当分の間は民主化などは起きそうもありません。

 

これはあくまでも巨額な石油収入があることが前提でしょう。

ただし、著者も触れているように石油はいずれは減少していくのは間違いないでしょうが、それでも湾岸諸国の石油生産量は石油時代の最後までもっとも多い部類に入るであろうということです。したがって、石油収入が減ったことにより君主制が揺らぐということも近未来的にはあまり起きそうもないということです。

 

ただし、支配家系の中での権力闘争は問題になりそうです。

他の君主制国とはことなり、これまでの所は「父子相続」「兄弟相続」という形があまり発生しませんでした。あくまでも支配家系の中から有能なものを選抜していくという公平性(その家族の中では)が維持されていたために皆が納得していたということがあったようです。

しかし、バハレーンとカタルでは父子相続制というものを選択してしまいました。いずれは首長相続から外された家系の反発が起きる可能性が強いものと見られます。

それを避けるために強権政治などを取るとさらに動揺が激しくなりそうです。

 

外国人労働者の問題と、支配層以外の自国民の問題も大きくなりそうです。

外国人労働者は賃金を極めて低く抑えられており、さらに人権も制限されるような状態です。女性メイドに対する性暴力も激しいものです。

しかし、その低賃金でも母国で得られる収入よりははるかに高いためにあまり問題化はされませんが、火種にはなるでしょう。

さらに、自国民も支配層やその周辺の人々は公務員として雇用され高賃金を得られますが、それ以外の人々はさほど高い収入はないようです。

彼らの不満が増加していけばこれも社会不安の要因になるかもしれません。

 

ここ数年の原油安はこれら湾岸産油国の政治経済も揺るがせているでしょう。いずれはまた石油高に変化するでしょうが、どこまで持つでしょうか。

世界の中での不安定要素であることは間違いないところです。