「言論」というものは、ひところ言われたような「コミュニケーション能力」というものだけでは片付けられない問題を解決するために必要なものです。
それが東日本大震災から福島原発事故に続く国難が次々と押し寄せてくる現代では、討論で決めることが必須であるにも関わらず、きちんと言論により決めるという手続きを経ずに雰囲気だけで押し通す現状になっています。
そこで、日本の様々な分野での言論の状況を一覧できるような「知図」としたものであり、政治経済からアート、伝統芸術、サブカルチャーに至るまで、15の領域の151の項目について解説文と図解で2ページにまとめたというのが本書です。
さらに、編者の萱野氏が4名の専門家といろいろな分野について討論した対談録も収められています。
対談者は、藤井聡(土木工学、京大)田原総一朗(ジャーナリスト)、飯田泰之(エコノミスト)、上野千鶴子(社会学者)の各氏です。
実際に「言論知図」を編纂したのは、所属はよく分かりませんが東京書籍編集部を中心とした人々と思います。
藤井氏との対談の中では、現在のTPP議論でも問題になる、「強い経済にするために輸出力強化」という点について、以前の世界金融危機の際の韓国の状況を問題にしています。
韓国では1997年のアジア金融危機の対応として、サムスンなどの輸出企業に社会的資源を集中させる構造改革がなされました。その結果、韓国の外需依存度は70%以上にまで上昇しました。(日本は28%)
そのために、世界金融危機でアメリカやヨーロッパの需要が激減すると韓国も危機的状況になりました。
ただし、危機によりウォン安になったために、輸出額は増加しているので、一見変化が無いように見えますが、一般国民の生活は落ち込んでいくそうです。
日本でも輸出主導の経済回復ということをいう人が居ますが、このような危険性が大きくなるのがその難点です。
田原氏の対談では、テレビジャーナリズムの内情です。視聴率を上げなければ生き残れないということから、報道番組も次々とバラエティ化してしまいます。
ジャーナリストとしての信念を通したいという希望があっても、視聴率が悪ければ打ち切りとなります。
そこの限界となるのが、田原氏いわく「生存視聴率 7%」だそうです。
7%取っていれば局もスポンサーも文句を言わないが、それを割ると危ない。また、視聴率10%、15%ということになると、番組の内容が変わってきており、バラエティ化してしまっているということだそうです。
ある程度の大衆の支持は必要だが、大きすぎるのも危ないとか。
飯田氏は、イラク戦争の理由として「イラクの石油が欲しかったから」という見方があることに対して、「古い植民地主義的な世界観によるもの」と切り捨てています。
そうではなく、フセインは2000年11月に、石油代金のドルでの受け取りを拒否するとしたことにあるということです。
石油代金決済をドルからユーロに変更するということは、アメリカのドル基軸体制に挑戦してきたということです。
この「アメリカの世界経済支配ルールへの反抗」がイラクのフセインを討たねばならなかったアメリカの理由であるというのが飯田氏の見方でした。
本書の大部分を占める「言論知図」については紹介はしませんが、あらゆる分野で言論というものは存在しているというのは間違いないことでしょう。
しかし、一番大切な政治の分野でそれがしっかりと為されていないように見えるのが現在の一番の問題点のように感じます。
それが政治であるということを国民全てがよく認識することが必要でしょう。