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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「研究不正 科学者の捏造・改竄・盗用」黒木登志夫著

著者の黒木先生は長年ガン細胞の基礎研究に携わってきた方ですが、本書中にも記載されているように不正な研究というものは医学分野に非常に多いという関係もあり、研究不正を防ぐということが必要ということを強く感じてこの本を書かれたそうです。

 

2014年は非常に大きな研究不正事件が起き、日本中で一般でも大きな話題となりました。

一つは理研のHO氏(本書中では不正に関わった日本人はアルファベッドの頭文字で書かれていますが、誰でもすぐ分かるあの人です)によるSTAP細胞事件です。

その登場が華々し過ぎたことからその後の逆転も大きな話題となりました。

もう一つはノバルティスファーマ社による高血圧症治療剤ディオバンのデータ捏造事件です。構造的にはこちらの不正の方がSTAPよりも影響が大きな不正だったと著者は強調しています。

 

これらの事件以外にも日本だけでなく海外の大きな事件まで21の事例を挙げてどのような研究不正事件があったのかを説明しています。

驚くほど単純な例もあり、また実力のある研究指導者自らが不正を主導したという例もあり、様々ですが、科学というものの価値を守るという意味からはどれもそれを大きく損なったものばかりです。

 

実例の中には有名なピルトダウン人やルイセンコ学説、日本で旧石器を捏造した神の手、韓国でのヒト卵子への核移植、等が含まれていますが、おおよそのことは聞いたことがあっても詳細は知らなかったので興味深いものでした。

このように、不正研究の実例がはっきりと知られていないという事自体、問題なことかもしれません。もっとこのような事例(特に不正を行なった人がその後どうなったのか)をことに科学を志す学生などには教えておく必要もあるのかもしれません。

 

学術分野による不正の多少というものははっきりとしており、医学と生命科学に特に多く、数学には不正は少ないそうです。

生命現象には特異性が大きく、通常でも再現性がなかなか得られないという特性があり、さらに使用する試薬や資料もばらつきが多いためだそうです。

研究不正の多い国というのも、総数は分かりませんが「論文の撤回」という現象を見てみるとアメリカ・ドイツ・日本が多いそうです。

また別の集計によると、発表論文数に対する撤回論文数率で見ると、多い順にインド・イラン・韓国・中国・日本・アメリカとなるとか。

なぜかアジア・中東の国が多いようです。

 

研究不正を防ぐためには、やはり若い研究者の卵に対しての研究倫理教育が必要なのですが、実際には不正を行なっているのは若い人ばかりではありません。全研究者を対象にするべきなのかもしれません。

研究室の運営も問題であり、トップ自らが不正に関与するばかりでなく、あまりにも抑圧的な運営をしているところでは、その圧力で不正をしてしまうという例もあるようです。

 

さらに不正を撲滅する取り組みが必要でしょうが、それでもなくならないだろうと言うのが著者の見解でした。

 

研究不正と言われて、自分自身もかなりの期間そういった仕事をしてきた時期もあり、本書は読んでいて冷や汗ものの内容でした。

私自身、「実験ノート」の整備というのが大の苦手できちんとしたものを書いたことがありませんでした。

今でしたらコンピュータの利用で相当時間の短縮が図れるのでしょうが、昔はぜんぶ手書き、元々悪筆ということもありそれが時間も無い中慌てて書くので後から読み返す気にもなれずお恥ずかしい内容でした。

さらに、何回やってもデータがまとまらない時には上手く行かない試行は外してしまうなどということも無いとは言えなかったものです。

しかし、省みてみても、そういった「研究倫理」ということは大学でも会社の研究所でもまとまって指導を受けたこともありませんでした。時代が違うといえばそうかもしれませんが、やはり初心のうちにしっかりと教育すべきものでしょう。

と、人のせいにしておきます。