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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「南海トラフ地震」山岡耕春著

かつては東海地震ばかりが危険視されその対策が重視されてきましたが、それの引き金となる南海トラフでの地震発生のメカニズムが研究されていくにつれ、東海から東南海、南海まで、すなわち南海トラフ全体が震源となる巨大地震発生の可能性もあるということが判ってきました。

 

次の巨大地震はここであろうと言う予測もあり、名古屋大学教授で地震学研究者の著者が南海トラフ地震の全体像を一般向けに解説されているのが本書です。

 

南海トラフとは、プレートテクトニクス理論によればフィリピン海プレートが北上してきてユーラシアプレートとぶつかって沈み込んでいる場所で、駿河湾から日本列島にそって九州の沖合まで続く地形を指します。

東北地方の太平洋岸の沖合に続くものは日本海溝と呼ばれていますが、トラフという地形は海溝ほどは深くならないことからそう名付けられています。

 

プレートは確実に一定の速度で移動しており、それがユーラシアプレートを巻き込みながら沈み込むことでストレスがかかり、ほぼ定期的に大地震を発生させます。

記録に残っている大地震は西暦684年の白鳳地震で、その後100~200年ごとに地震が繰り返されています。

なお、東海から南海まで一気に崩れれば大きなマグニチュードを持つ大地震となりますが、数年の間に分かれて起きる場合もあり、前回は1944年に昭和東南海地震、1946年に昭和南海地震の発生が続けて起きています。

また、1945年には前年の昭和東南海地震震源のすぐそばで三河地震が起きており、これは東南海地震に誘発されたものです。M6.8であったにも関わらず多くの犠牲者を出しました。

三河地震で非常に興味深いのが、前震が1週間ほど続いてその後に最大の地震が来たというところです。

本書には触れてありませんが、先日の熊本地震で前震よりもMが大きい本震が2日後に起きたということがありました。地震なんて分からないことばかりということでしょうか。

 

南海トラフ周辺では、地震を伴わずにプレートが滑る「スロースリップ」という現象が見られる地域があります。

浜名湖沖の「東海スロースリップ」と大分沖の「豊後水道スロースリップ」というものですが、地震が起きずにプレートのストレスが無くなるのなら良いことではと思っていたのがそうではなく、そこだけストレスが解放されてもその周辺のストレスがかえって増強されることで、巨大地震につながるというのが本当のところのようです。

 

南海トラフ地震による被害で注意すべきなのは、東北地方の地震と比べて震源域が陸地に近い点です。

このために陸上での震度も強くなる可能性があり、東日本大震災では揺れによる被害は比較的少なかったのに対し南海トラフ地震ではそちらも危険性が強いということです。

また、震源域で津波が発生するとその到達時間も東日本よりはるかに短い可能性があり、場所によっては数分で到達という場合もあるようで、避難に使える時間が短くなるという危険性が強くあります。

 

さらに、東日本大震災と比べて南海トラフ地震の被災地域は人口と産業規模がまったく違うという点も問題です。

東日本大震災で被害を受けた青森から茨城までの地域の人口を合計すると980万人だそうですが、南海トラフ地震の被害を受けると予測される、静岡県から東海、近畿、四国、九州をすべて含んで鹿児島県に至る地域の総人口は3500万人に上ります。

この人口の違いは復興に当たる際に大きな差となることになります。

もちろん産業の広がりもはるかに大きいためにそれが被害を受けた場合の影響はさらに大きくなりそうです。

 

地震の災害は特徴的なものがあり、関東大震災の火災被害、阪神淡路大震災の時の家屋倒壊、東日本大震災津波と、犠牲者の多くが亡くなった要因というのはそれぞれ違います。

そのため、その後の安全対策では火事の防止、耐震構造の向上、津波想定の見直しといったものが強調されています。

著者が主張しているのは、今までに起きたことのない災害についてはあまり想像して対処しようと言う動きがないのは危険であるということです。

 

これまでにあまり起きていないが、もし起きれば大変な被害が出る可能性があるのが「海抜ゼロメートル地帯地震被害」です。

全国的に見れば、関東平野越後平野濃尾平野佐賀平野に広く分布しており、この場合は濃尾平野の海抜ゼロメートル地帯が該当します。

この場所は伊勢湾の奥にあるために津波の来襲までには時間の余裕があるのですが、もしも地震の揺れで堤防が破壊されれば、すぐにでも一気の浸水が始まります。この地域は人口も密集していますので大きな被害が起きる可能性がありそうです。

 

また確証はないものの、富士山がこの地震に連動して噴火する可能性もあり、これにも注意する必要がありそうです。

南海トラフでの地震でこれまでに最大であった江戸時代の宝永地震の際は地震の49日後に富士山の噴火が起き宝永火口ができました。

 

終章には日本で暮らすことについての著者の考えが書かれています。

どのような対策を取ってみてもそれを上回る災害が起きれば被害を受けるのが日本です。もしもどうしても嫌なら日本を離れて海外に移住するしかないということです。

 

熊本地震の際に言われたことは、あのような内陸の活断層地震は頻度は低いもののいつ起きるか分からないというものでした。

それに比べると南海トラフ地震のようなプレート地震は定期的に必ず起きるという特性があります。今後30年間に発生する確率は60%以上とか。まあ必ず起きると言ってよいでしょう。

分かっているならもう少し本気で対策をしろよと言いたくなりますが、そこまで考えられているようには見えないのはどうしたことでしょうか。