ヘイトスピーチという、人種差別的発言を繰り返すデモが問題になり長くその対策ができずに放置されてきたのですが、ようやく今年2016年5月になりヘイトスピーチ規制法(正式名称は書く気もしない)が成立しました。
その法律にはかなりの問題点を含むとはいえ、何もなかった状況が長く続いたことを思えば少し動いたと言えるかもしれません。
本書は、長くこの問題について発言を繰り返してきた参院議員の有田芳生氏が2013年の時点での状況を詳説し、対策法の必要性を訴えたものです。
在日韓国・朝鮮人に対する暴言暴力等の嫌がらせは昔から続いていることですが、特にこの5年ほどにはデモ隊を組み東京の新大久保や大阪の鶴橋といった韓国・朝鮮人の多いところに出向き、大声で人種差別的発言を繰り返すということが頻発するようになりました。
これには、在特会(在日特権を許さない市民の会)という集団が関わっており、インターネットでの活動で参加者も増加してきました。
この集団的な示威行為はあまりの攻撃性のためにかえって報道されることも少なく、あまり知られていなかったということもあったのですが、徐々にその状況が知れ渡ってきます。
カウンターと呼ばれるこのような行為に反対する人たちのデモも行われるようになり、暴力事件も起きるようになります。
しかし、これらのデモには多くの警察官、機動隊が警備として取り囲んでいるにも関わらず、どのような暴言を大声で怒鳴ろうがまったく取り締まることはありませんでした。
こういった行為を取り締まる法律根拠がないそうです。朝鮮人死ねと言うことは、特定の人に対する脅迫や名誉毀損には当たらず逮捕もできないとか。
2013年には有田氏は国会内で対策法制定のための運動を起こしたそうですが、国会議員の反応も極めて鈍いものでした。
このヘイトスピーチというものについては、国連の定めた「自由権規約」と「人種差別撤廃条約」により国内法も整備すべきことが決められていることです。
自由権規約は1966年に国連で決定され、現在167カ国が加盟していますが、日本が加盟したのは1979年でした。
人種差別撤廃条約への日本の参加はさらに遅れて1995年です。
そして、この条約において人種差別を防ぐ国内法を整備しなければならないという義務が課せられています。
しかし、2013年現在そのための国内法はまったく整備されていません。
国連の人種差別撤廃委員会はその法令不備について2001年に整備の勧告を出しました。それに対して日本政府が出した見解は「日本には人種差別行為がない」でした。
あまりの認識の無さには驚きます。
2013年になっても政府見解はそれと大差のないものしかありませんでした。
それはすでにヘイトスピーチの問題が大きなものとなっている状況でのものであり、それに対して何もしようとしない政府の姿勢は問題視されるものでした。
政府としては、ヘイトスピーチ規制が表現の自由の制限につながるということを指摘しています。
しかし、「人種差別的表現の自由」というものを無条件に認めている国は無く、さらにそれについての犯罪行為はより厳しい量刑を課すというところが多いようです。
この本出版から3年を経てようやく一応の法律制定ということにはなったようです。
しかし、この法律は在日外国人に対する暴力的発言行為のみを取り締まるというもののようで、他の人権侵害問題はどうするのかといった普遍的な法律では無いようです。
こういったところから、政府や政治家の人権意識の乏しさはかいま見えるところです。
こういった社会問題に触れるたびに日本という国、そこに住む人々の中のある種の人に対しての嫌悪感を感じざるを得ません。