池田さんはご専門が生物学なんですが、その他の方面のご活躍の方が有名になっています。
それでも専門分野に関係して一般向けの著書もしっかりと出版されており、本書もその一つと言えるでしょう。
この本の内容は、夕刊フジに連載されていた「池田教授の今宵学べる生物学」というコラムをまとめたものということで、普通の人が軽く読める中で科学知識も学べるようなものになっています。
ジャンル分けしてまとめてありますが、生物進化、生命と細胞、性と生殖、環境と生態、ヒトの謎といったものになっています。
中には私も知らなかったというものもありますので、結構興味深いものでしょう。
近くのオスより遠いオスにひかれるのはなぜか。
高等動物のメスは同種であれば遺伝的に遠いオスに惹かれる傾向があるそうです。これはもちろん近親交配の危険性を避けるという意味があるのですが、サルやゴリラ、チンパンジーにも確かに存在する行動のようです。
もちろん、人間にも色濃く見られる行動様式であり、特に女性の排卵日には親しい男より知らない男に魅力を感じるとか。
外来生物は悪者なのか。
外来種という生物を排斥しようとする活動は広く行われていますが、外来種をぜんぶ排除すると今の生活は成り立ちません。
イネもたかだか2500年前に日本列島に入ってきた外来種ですし、その他の食用作物もほとんどが外来種です。
(そもそもヒトも日本列島に元々居たわけではないはずです)
最も低酸素に強い魚は何か。
そもそも水中で発生した生命がなぜ無理をして陸上に上がったのか。
陸上の危険性は数多く、温度変化の激しさ、紫外線によるDNA損傷の危険性、重力の影響をまともに受けるなど生命に直接関わるものがあります。
それでも陸上に上がる理由の一つが「水中の酸素濃度は大きく変化する」からだそうです。
今でも時々海で赤潮などが発生して魚の大量死が起きますが、これは水中の酸素が欠乏してしまうからで、他にも水中の酸素濃度が極端に低下して死亡する事態は頻発します。それを避けるために陸上に逃れたということがあるようです。
それでも魚種により低酸素に強いものは居るようで、ベタ(闘魚)という魚は小さなコップの中でも飼育できるほどだそうです。
感染症はいつから発生したのか。
現代では大きな問題となる病気はガンや糖尿病などの生活習慣病ですが、一時代前までは結核や胃腸炎、肺炎などの感染症が猛威をふるっていました。
そのため、原始時代からずっと感染症が人の命を奪う最大の要因だったように思いますが、実はそうでもないようです。
1万年以上前までは人類はどこでも狩猟採集生活を送っていましたが、そこでは生活をともにする集団もせいぜい50人から100人までのバンドと呼ばれるものでした。そして他の集団との接触もほとんどなかったようです。
このような条件では感染症というものは存立が難しいものです。もしもこのバンドに感染症が入り込み免疫もないままバタバタと倒れてしまえば、バンド自体が崩壊し消えてしまいます。そうなると感染症の病原菌も一緒に消えてしまうことになります。
また、寄生虫病も一定の場所に長く住むことにない狩猟採集生活では存立できなかっただろうと言うことです。
とはいえ、その頃の人々は感染症にもかからずに長生きできたというわけではなく、慢性的な栄養不足などで寿命は短かったようです。
知らないことを知るというのは面白いものです。これでまた、誰にも言えない知識を貯めこむことができました。