爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

食料自給率 その虚像と実像

最近よく拝見しているブログを書いている方が「食料自給率に関心あり」ということだったので、自分でもややあやふやなところがあったこともあり、改めて調べなおしてみました。

 

食料自給率の数値としてよく上がってくる「40%」というのがありますが、これは「カロリーベース」という算定方法によるものです。

 

もう一つ、農水省の算出している数字では「生産額ベース総合自給率」というものもあり、これは64%ということです。

 

農水省の資料によればこれらの算定方法は以下のとおりです。

 

(例)カロリーベース総合食料自給率(平成26年度)
=1人1日当たり国産供給熱量(947kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,415kcal)=39%

 

(例)生産額ベース総合食料自給率(平成26年度)
=食料の国内生産額(9.8兆円)/食料の国内消費仕向額(15.3兆円)=64%

 

農林水産省/食料自給率とは

 

簡単に言えば、カロリーベースは輸入している農産物をすべてカロリーで計算し、消費カロリーと比較するというもので、金額は関係ありません。

生産額はそれを金額で表したものの比率です。

 

なお、注意しなければいけないのはカロリーベース自給率の計算の際には、国内生産の畜産物などは輸入飼料穀物で育てられているので国産には当たらないということになるということです。

 

自給率を比較したという表をWikipediaより引用させていただきます。

主要国の食料自給率比較
国名カナダオーストラリアフランスアメリカドイツイギリスイタリアスイス日本
生産額ベース
(2009年)
121% 128% 83% 92% 70% 58% 80% 70% 70%
カロリーベース
(2011年)
258% 205% 129% 127% 92% 72% 61% 57% 39%

 

カロリーベースでのカナダ258%、オーストラリア205%といった大きな数値に対し、日本の39%はいかにも低く、イタリアやスイスの60%前後というのと比べても低さが際立って見えます。

 

しかし、その上の「生産額ベース」の表を見れば印象はかなり変わるのではないでしょうか。

これは農産物生産額(金額)でまとめたもので、日本は70%、ドイツやスイスと同レベルでイギリスより高いということになります。また、カナダやオーストラリアもそれほど高いわけではないようです。

 

なお、この表に書かれている各国の自給率数値は各国で発表されているものではありません。こういった数値をまとめるという意味は国際的に共有されているわけではなく、各国は算出していないので日本政府が独自にまとめたもののようです。

 

日本のカロリーベース自給率が低いのは明らかに安い飼料穀物(トウモロコシや大豆)を大量に輸入して家畜の餌として使っているからと言えそうです。

また、生産額自給率が高くなるのは日本の農業生産物が野菜や果物など高価なものを多く作っているからでしょう。

 

カロリーベース自給率をことさら強調することの問題点は他にも指摘されています。

飼料用穀物は考慮されているにもかかわらず、それ以上に大事な農業用資材、特に石油などの燃料、化学肥料の輸入分はまったく計算されていません。

もちろん、これらもほとんど全てが輸入されています。

特に農水省などの政府は「食糧輸入が途絶えたら」ということを挙げて国内生産を増やすべしという世論誘導を図っていますが、「食糧輸入」が途絶える状況になればその前に「エネルギー輸入」や「化学肥料輸入」の方が途絶えることになるのではないでしょうか。

 

もちろん、エネルギーや化学肥料の輸入が途絶えれば国内での農業生産も壊滅します。

いずれにせよ、貿易が困難になるような状況がくれば食糧だけ生産しようとしても無理ということでしょう。

 

なお、余談ですが、このカロリーベース自給率を劇的に上昇させる簡便な方法があります。

それは「国内での畜産を廃止し、精肉輸入に転換すること」

畜産農家は廃業、アメリカの穀物農家も困るでしょうし、喜ぶのはアメリカやオーストラリアの畜産家だけでしょうが、これをすれば輸入穀物のうち加工食品用の大豆と小麦を除けば数量激減しますので、自給率は跳ね上がるのでは無いかと思います。