著者のレイ・ヒルボーンは漁業資源学者で現在はワシントン大学教授ということです。
世界の漁業資源については、乱獲され減少しているというのが一般的イメージですが、すでに厳しい漁業コントロールによって回復されているのではという地域もあるようです。
そのどれかについて記すというのならまだ分かりやすいのかもしれませんが、一般論とするのは難しいものでしょう。
そんな中での概説です。難しい表現をされているのかもしれませんが、資源が崩壊した例、回復する例等を引きながら一般的に分かりやすいように書かれているようです。
ただし、序文と日本語版への著者の文に書かれているように、その記述の範囲はほとんどがヨーロッパ、北アメリカの周辺に限られており、日本周辺の問題については含まれていません。
他の本を参照しても、日本の漁業管理はほとんど上手く機能していないのですが、それに加えて近年の韓国や中国漁船の大量進出という問題もあり、大変な状況なのですが、それらは本書には書かれていません。
そういった不満点はあるのですが、漁業資源と乱獲というものの関係については基礎知識として知っておくべきことが記されていると言えるでしょう。
本書はまず、乱獲とは何か、持続的な生産とは何かといった定義のところから始められています。
様々な環境での漁業による資源減少は昔から存在しており、河川や湖沼などで魚を取り過ぎて居なくなったという問題は頻繁に起きていました。
しかし、技術的な問題から海での漁業資源の減少はなかなか起きなかったものが、19世紀から漁獲技術の進歩というものは長足の進歩を遂げ、エンジン付きの漁船、高性能の漁網、魚群探知機やGPSなどの電子機器の発展で漁獲能力は増加する一方でした。
その結果、明らかに漁業資源が減少してしまったと判断されるような急激な漁獲量の低下が起きました。
海の中にどの程度の魚が居るのかということは簡単に知ることはできないのですが、科学的にその量を推定するという方策が考えられ、実施されていますがまだ正確とは言えないこともあるようです。
この推定のためもあり、日本の調査捕鯨というものも行われているのですが、それに対する批判もあります。
カナダの北大西洋のタラ漁というものは、1960年代に大型船の導入ということが行われたために急激に資源の枯渇を招き、1990年代には資源量が当初の10%以下にまで落ち込んだとされています。
そのため、厳しい漁業管理が行われ、地域によっては回復しつつあるところもあるようです。
世界各地でこれまでのオープンアクセス漁業から、個別割当制(IFQ)を採用して移行するところが増えています。
これは全体の漁獲枠が個々の漁船やライセンス所持者に割り当てられ、その範囲内だけで操業が許されるというもので、これを厳しく管理すれば漁獲枠の厳格な実施が可能となります。
また、この割当枠を譲渡することも可能とするITQという制度をとっているところもあります。
漁獲枠厳守という点では効果があり、競争で取り合うというこれまでの状況と異なり十分に生育させてから取ることも可能なために魚の品質も向上し高価格での取引も期待できるという利点があります。
しかしこの制度も良いことばかりではないようで、漁業としての発展性はなくなり雇用者も増えない。またITQが外部に譲渡される可能性もあり投機的な参入業者も考えられる。等の問題点があるようで、各国もその対策を考えているようです。
このような管理の進んでいる国は、アメリカ・ニュージーランド・ノルウェー・アイスランドであり、経済的にもこれらの国は漁業が十分に産業として自活できるようになってきているようです。
ただし、国土の大きさが重要な要素であるのは確かで、アメリカ以外のこれらの国は小さく利害関係者の数も少ないという利点があります。
大国でこういった管理がうまくいくかどうかは分からないようです。
本書で日本の実状を取り上げていないというのは、現状があまりにもお粗末だからかも知れません。
漁業資源に依存する率の高い日本としてはより効果的な漁業管理をするべきなのですが、それがほとんど機能していないというのは大きな問題点でしょう。
しかし、漁業管理としての乱獲の状況を世界的にとらえるというのではなく、日本の現況について考えるならばやはり以前に読んだ以下の2冊の方が分かりやすいものだったと感じます。