爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「イギリスのいい子 日本のいい子 自己主張とがまんの教育学」佐藤淑子著

アメリカ人は自己主張ばかり、日本人は自己抑制ばかりといった観念論はよく目にしますが、イギリス人はその中間といった面があるようです。

こういった点を教育学が専門でしかもご自身も子供の頃から世界各地で過ごしてきたという著者の佐藤さんが幼児教育を特に取り上げて論じています。

 

著者は小学校5年まで日本で育ったものの、ご父君の仕事の都合でオランダへ、さらに自らの研究のためにアメリカ、イギリスで過ごしてこられたという経験から、教育の場でも各国の文化というものがどのように影響を与えるかという研究をされてきたようです。

日本人は自己抑制が強いという印象は誰もが持っていると思いますが、実際にそうであるばかりではなく、幼児教育の場で親や教師が教えこむのも抑制方向であるということを確かめています。

 

また、アメリカ人が自己主張ばかりというのもその傾向がありそうですが、一般に一口に英米とひとくくりにしがちですが、イギリスとアメリカとは大違いのようです。

イギリス人も非常に自己抑制をする一面が強いという点があります。

しかし、自己主張も重要視しているのも事実です。

著者の意見では、自己主張と自己抑制のバランスを上手くとっているという点ではイギリスの教育というものは優れてものではないかということです。

 

 イギリスでは乳幼児期のしつけが非常に厳しいというイメージが有ります。これはビクトリア朝以降の数々の文芸作品にもそのシーンが出てくるからでもありますが、生活時間の厳守、自己抑制、従順、年長者への尊敬などの項目を家庭教育でしつけるということを反映しているということです。

大人と子供の区別というものをはっきりとさせるのも日本と大きく異なるところで、食事やくつろぎの時間でも別々に過ごすということが行われます。

 

一方、自己主張を尊重するしつけというものも現在では重んじられるようになっているそうです。

ただし、これはイギリスでは階級による差が大きく、中産階級と労働者階級では異なる場合もあります。

また、子供同士の喧嘩にも大人が介入することが多く、それを通して何が正しいかを教えようとすることがあります。

日本の場合はこどもの喧嘩にはほとんど親は介入しないで子供に解決もさせるという方向が普通であるのに対し、大きな差が見られます。

 

イギリスでは日本の幼稚園に当たる年齢の子供を義務教育の幼児学校で教育するために、単純な比較は難しいのですが、イギリスでは学校で自発性の尊重と言語教育の重視が見られるようです。

一方、日本の幼稚園では多くは「情操教育」というものを重視し、知育はかえって家庭で過重に行われるために幼稚園では取り上げないという面があります。

その次の過程での小学校では知的教育のみになりますのでその影響もあるのかもしれません。

 

ただし、日本の自己抑制は日本人の集団主義とこれまではよく噛み合ってきました。しかし、都会では特に周囲と集団を形成しているという意識が作られず、まったく見ず知らずの人ばかりの中では自己抑制も働かせずに傍若無人な振る舞いをしてしまうという行動が頻繁に見られるようになってしまっています。

自己抑制ばかりを強調する人格形成ではこのような無理が溜まってきそうです。

集団ではない、他者ばかりの社会の中できちんと社会性を保つためには、適度な自己主張をできる人格になることが必要です。

そのためにも、自己主張と自己抑制をバランスを保ちながら育成していくイギリスの教育というものを参考にしていく必要がありそうです。