先日の熊本地震では九州新幹線で回送列車が脱線、長期にわたり運休し、運転再開した現在でも2ヶ月弱が経過し未だ徐行、変則ダイヤでの運転が強いられています。
同様の状況が、平成16年の中越地震でも発生し、新幹線開業以来初の運転中の列車の脱線事故が起きました。
本書は、その脱線事故を中心として中越地震における新幹線などの鉄道の被害状況を、かつての国鉄で建設関係を主に担当して国鉄総裁まで務めた仁杉氏の監修、そして国鉄で工事局長などをつとめた久保村氏、町田氏の編著でまとめられたものです。
新幹線の地震被害は実は平成7年の兵庫県南部地震のものが大きかったのですが、幸いにも運転開始の14分前の早朝の発生だったので被害者は出ずに済みました。
しかし、高架橋、橋梁等に甚大な被害を受け、運転中であれば多くの死傷者が出たはずということで衝撃を受けた鉄道関係者はそれに対応するべく設備の耐震補強工事を進めました。
それにもかかわらず、中越地震では走行中の列車1本が脱線してしまいました。
ただし、これも幸いな事に人的な被害は出ずに済みました。
中越地震はマグニチュードは6.8ながら、震度は6強、また地震の揺れの加速度も強いという、範囲は狭いながらも強力な揺れを引き起こした地震でした。
また震源も浅い直下型地震であり、早期地震検知警報システム(ユレダス)の機能も発揮できないものであったために、列車1本の脱線につながりました。
ただし、少し離れたところを走っている列車はなんとか脱線せずに止まることができたために、脱線した列車に突っ込むといった大災害にはつながりませんでした。
また、それまでは地表を伝わる横揺れの波は地中には影響がないのでトンネルには被害が少ないと言われていましたが、中越地震ではトンネルの壁の崩落などが起きました。
断層帯では影響がないとは言えないようです。
今後の対策についての記述では、ユレダスのさらなるレベルアップというものが書かれています。
実際に、九州新幹線にはコンパクトユレダスという方式のシステムが導入とありますが、どうだったのでしょうか。
震源が直下、しかも極めて浅い位置であれば揺れを感知して停車というのは無理があります。
脱線防止ガードが全線にわたって付けられていないということも九州新幹線では問題視されました。
これもガードがあれば脱線しないというものではないように思います。
おそらく、この本に書かれたような中越地震での事故対策のための取り組みは、今回の九州新幹線での脱線事故の検証を行い、各JRが共同で進めていくでしょう。
徐々にではありますが、より強靭な鉄道となっていくものと思います。