爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「地震の揺れを科学する 見えてきた強震動の姿」山中浩明編著 武村雅之/岩田知孝/香川敬生/佐藤俊明著

本書のあとがきに書かれているのは無署名ですがおそらく編著者の山中さんだと思います。

そこには「これまでの地震に関する一般向けの啓蒙書の多くは、一方でプレートテクトニクスなどの基礎的な地球科学を扱うものと、もう一方で耐震・防災に関するものであり、両者の境界領域である強震動に関するものはあまりなかった」とあり、本書はその「強震動」というものをあくまでも工学的な見方から解説されているものです。

なお、「一般向けの啓蒙書」とは言うもののかなり歯ごたえのある内容であると思います。

 

 本書は2006年の出版であり、兵庫県南部地震の発生の1995年から約10年後のものです。

兵庫県南部地震では建物被害の特に大きな地域が非常に狭い帯状の分布をしていたそうです。この「震災の帯」というものの研究を強震動研究者が精力的に行なうことで地震の発生という地震学の分野と、建物の被害を防ぐという耐震工学の分野とがつながってきたということです。

本書は「強震動地震学」というあまりこれまでは一般には知られていなかった分野についての初めての解説書ということです。

 

明治以降に震度7を記録した9つの地震について、そのマグニチュード震度7の範囲を並べてある図は興味深いものです。

小さいものでは1945年の三河地震はM6.8なのですが、岡崎付近の結構広い範囲で震度7となっているようです。

大きいものでは1891年の濃尾地震は名古屋付近からかなり北方まで大きな揺れがあり家屋倒壊も多数になりました。

震度7地震の発生というものは、1950年以前はかなり頻繁であり、5年から10年に一度は起きていたのですが、それから1995年までの約50年間は発生がありませんでした。そのために兵庫県南部地震が衝撃だったわけです。

 

それらの地図を詳細に見ると、震度7になっている地域というものは震源断層に沿ったせいぜい両側1kmの領域が細長く続いているのが一般的のようです。

ただし、中には断層から10km以上離れたところで震度7となるところもあります。

これは地層の構造のために震源から離れていても揺れが増幅されるという理由のためです。

 

震源というのは、岩盤の中のひずみの破壊が始まった破壊開始点のことであり、そこからずれ破壊が広がっていくところを震源断層と言います。地表までズレが広がり観察できる場合もあり、これが地表震源断層となります。

兵庫県南部地震の場合は、震源明石海峡直下の約17kmの深さであり、そこから六甲・淡路断層系に沿って北東に30km,南西に20kmの範囲に震源断層が広がりました。

 

地震というものは様々な震動周期のものが複雑に絡み合っているのですが、それと建物の固有振動周期とが一致した場合は被害が大きくなるようです。

ただし、建物も固有周期が一つだけあるのではなく、幾つもの固有周期を持っています。

それでも建物の被害に直接関係するような固有周期は数個に絞られるようで、それを「強震動の卓越周期」と呼ぶそうです。

高層ビルなどの大型の建物では長周期の震動の影響が問題となっています。

また、2003年北海道の十勝沖地震の際にかなり離れた苫小牧の石油貯蔵タンクで長周期の震動により石油が溢れて火災になったスロッシングという事故も起きました。

免震装置、耐震構造などの工学的な研究がなされているところです。

 

地震の研究というのは、どうしても実際の地震の被害を受けてからという後追いになるのは仕方のないことなのでしょう。

今回の熊本地震ではわずか2日の間に震度7を2回受けるという地域も出てしまいました。

そこでは最新の耐震性を持った建築でもかなりの建物が被害を受けました。こういった点もこれから多くの検討がされていき、それに応じた建築基準ができていくのでしょう。

次にどこが「被災地」と呼ばれることになるのでしょうか。