爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鈴木さんにも分かるネットの未来」川上量生著

著者の川上さんは株式会社ドワンゴの会長、つまりニコニコ動画を開発、運営されたIT業界でも先端の企業のトップです。

その著者が、「鈴木さん」に対してネットというものを説明しようと言うのですが、その鈴木さんとはスタジオジブリのプロデユーサー、鈴木敏夫さんで、その鈴木さんから「ネットについて分かりやすく説明してくれ」という依頼を受けていたそうです。

 

しかし、その鈴木さんという人はネットなどについてはほとんど分からないということで、簡単に要領よく説明しようとしてもすぐに飽きてしまい話を聞かなくなるとか。そんな鈴木さんでも理解できるように書いてみましたというのがこの本です。

 

とはいえ、読んでみた感触から言うと、ある程度ネットに興味がある人には分かりやすい説明になっているとは思いますが、それ以前で理解が止まっている人にはやはりとっつきにくいものだったかもしれません。

 

ネットがパソコンベースのインターネット接続であった時代から、さらに現在はスマホがメインの環境に移行してきています。しかし、ネット社会に参加する人々も様々な環境からの接続ですので一口では言えないものかもしれません。

 

本書は「ネット住民」「ネット世論」といった分かっているようで分からない言葉の説明から始まります。

ネット住民というのは、現在のようにネットをツールとして使いこなすという人々とは少し異なるようです。

著者はこういった人たちを特に「ネット原住民」と呼んでいますが、かつてのパソコン通信時代からネットに参加していた人々です。彼らは趣味としてネットに進出してきましたが、現在のようにインターネットが広くほぼ全ての人々に利用されるようになってみると少数派に転じてきています。しかし、まだネット全体としてみると隠然とした力を持っているようです。

現実社会の「リア充」と呼ばれる人々に対して敵意を持っているのが彼らでもあります。そこでそういった人々の振る舞いに対して「炎上事件」を起こし警告をすることもあります。

 

コンテンツという言葉も分かっているようで難しいものですが、ゲームソフトから音楽、書籍などなど、誰かが創りだしてネットの中に流れ込むものですが、これも無料になるかどうかといった話題もありました。

コンテンツが無料になるという考えも強固にありますが、これはネット社会では「コピーが無料でできる」ということと混同して(恣意的に?)広められたものであり、もちろんコンテンツの創造には費用が掛かる以上無料にできるはずもありません。

 

しかし、コンテンツの価格がどのように決まってくるかということを考えて行くと、コンテンツとプラットフォームの関係というものが重要になってきます。

プラットフォームというのはアップルストアとか、グーグルプレイ、アマゾンなど販売者がそれに当たるのでしょうが、これが力を持ちすぎるとそこの支配力が強くなっていきます。

 

このようなビジネスモデルは実は任天堂のゲーム機が始めだったようです。そこでは任天堂の支配力が強く、ゲームソフトの製作者は任天堂の決めたルールに従わなければ参入することも出来なかったわけです。

取り分というのもプラットフォームが決めました。

 

ここで「オープン」と「クローズド」の問題が大きく関係してきます。

IBMが支配してきたクローズドの大型コンピュータ社会からネットのオープン社会へと移行するということで、オープンの勝利がやって来たという一時代がありました。

しかし、携帯からスマホになっていくにつれ、「クローズド」化の勢いが強くなってきました。

スマホのアプリなどはすべてプラットフォームの強い束縛のもとで開発されています。ずっとオープン化が進んできたネット社会で逆行するかのような動きが強まっています。

今後もクローズド化の動きは強まる一方だろうと言うのが著者の予測です。

 

インターネットと国家の関係というのも大きな問題です。国家の規制がかけられるかどうか、中国などでは必死に規制していますが、難しいものでしょう。

また、これらはネット企業に課税できるかどうかという問題にも関わってきます。

アマゾンなどには課税できないという実態があるようです。

せめて消費税のようなものは課税する程度しかできないようで、法人税徴収は困難なようです。

 

電子書籍もどんどんと広がるでしょう。

今、電子書籍が爆発的に広がらないのは読書家のこれまでの習慣だけであり、それに抵抗がなくなれば(あるいは抵抗がある人間が減少すれば)利点が多い電子書籍が取って代わるのは間違いないでしょう。

その時には書店、取次店というものは壊滅します。そうなれば書籍の価格というのも低下するでしょう。

問題は、出版社というものが原稿を本にして販売するというだけでなく、原稿をまとめる段階でも著述者に対して大きな影響を及ぼしているということです。それがなくなればまともな本はできにくいかも知れません。

また、書店で消費者が本に触れる機会が無くなるということも大きな点です。これが読書のきっかけとなるというのは間違いのないことです。これなしでは読書というものが激減するのもさけられないかもしれません。

 

他にも本書には様々な話題が取り上げられています。ネットにより影響を受けるのは社会の多くの面に見られるようです。それがどのようなものであれ、いずれはそうなるのでしょう。