群馬大学教授の高橋久仁子さんは「フードファディズム」というものを日本で最初に紹介された方ですが、この本はそれを一般向けにブルーバックスで書かれたかなり早い時期のものです。
実は私がこの本を買ったのも出版からさほど遅れない時期で1999年頃だったのですが、私自身にとっても非常に意義深いものでした。
当時は食品工場で品質管理を担当していましたが、その日その日の仕事に追われて食品工業全般に関する認識は非常に低いものでした。
それが、たまたま出張で出かけた大分の書店で見つけて読みだした、この本の内容には衝撃を受けそれ以降は様々な方面のことに興味を持ち調べるようになりました。
食品というものには栄養素というものが含まれています。基本的なものはある程度の知識が得られているとはいえ、まだ良く知られていない成分などは数多く、新たな研究によりその効果が発表されるということは頻繁に起きています。
そこがまた「フードファディズム」というものが入り込む隙になっています。
「フードファディズム」という概念は当時はほとんど知られていなかったものですが、現在でもそれほど広まっていないかも知れません。
それは「食物や栄養素が健康や病気に与える影響を”過大に”信じたり評価したりすること」というものであり、食品に関する論説・噂・風説等はほとんどこの概念の影響下にあることが分かると思います。
本書ではこの概念を理解しやすいように具体的な例を数多く挙げて説明されています。
「けなされる食品」としては、白砂糖、炭酸飲料、化学調味料、高温殺菌牛乳等々、実際はそこまで影響もないものを批判されています。
「ほめられる食品」の例としては、天然酵母パン、有精卵、オリーブ油、有機食品、天然塩、等々、確かに一定の根拠はあるものもありますが(無いものもありますが)それを過大に取り上げています。
「いわゆる健康食品」はクロレラ、核酸、キチン・キトサン、レシチン等々、これらも根拠はあるもののそれが実際の食品中で効果を発揮するとは言いがたいものが多いようです。
これらのフードファディズムの根本には消費者の健康不安が関わっています。そこに売りたいがための商業主義がつけ込み、その手段として「効く・効かない」を使っています。
「何かが身体に良いと信じて食品を食べる」ことを著者は「効能主義」と呼んでいます。これとは一線を画し、「食べものは食べものとして」食べることが重要と結論づけています。
高橋さんはこの本出版の後も活発に情報発信を続けて居られます。その活動は注視する価値のあるものだと思います。