爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「47都道府県の子どもたち」舞田敏彦著

「今どきの子供は」とは良く言われますが、その実像はなかなかきちんと測られているものではないようです。

特に、「子供」というものは非常に狭い範囲で生活しているということから、日本全体として見てもあまり統一的なものが得られるわけではなく、地域ごとに細かく見ていくことが必要になります。

そういった観点で教育心理学者の著者が県別に様々な子供の状況を調査しまとめてみたというもので、まえがきには著者の希望としてぜひ各県の教育関係者に読んでもらいたいと述べられています。

 

それというのも、各都道府県により調査された結果に相当な違いが明瞭に出ているからで、死亡率といったものですら大きな地域の違いが現れています。

2006年の5歳から14歳までの死亡率は最も高い岐阜県で10万人あたり17.31人、最も低い鳥取県で3.51人と実に5倍近い差があります。

子供の死亡原因は事故が最も多いのですが、この年の上位5県(岐阜、宮崎、富山、山形、愛媛)といったところが特に交通事故が多いとも言えず、その傾向を示す原因はよくわからないようです。また、年ごとの変動も激しくこれらの県が毎年上位というわけでもないようです。

 

本書に載せられた調査は、各都道府県ごとに1発育状況、2能力、3逸脱行動を示す指標となるデータを調べてまとめ、それを解析しました。

1発育状況を示すものとしては、上記の死亡率の他に、肥満児出現率、近視出現率があげられ、

2能力では、学力、体力、道徳意識が、

3逸脱行動では、非行者出現率、いじめ容認率、不登校発生率を調べています。

 

都道府県のデータは全国平均と同じチャートに描かれておりそれと比較して上か下かがすぐに分かるようになっています。

例えば、東北地方では肥満、近視の出現率が高いという特徴が出ていますが、逸脱行動の出現率は低くなります。

東京では学力、近視、いじめ容認が全国平均より突出して高くなっています。

大阪では学力、体力、道徳意識がみな全国平均を下回り、非行いじめ不登校などは大きく上回るということになります。

九州では福岡を除いて非行率が非常に低く、またいじめ容認率も特に南九州で極めて低いというのが特性でしょうか。

 

なお、本書後半はこのような特性をもたらしたと考えられる環境の地域差を同様に県別にまとめてあります。

すなわち、1世帯あたりの人数、非就学援助率、家族連帯度、教員数、カウンセラー数、学校充実度、20年以上居住者率、職住一致率、等です。

 

北陸や東北などは家族の結びつきが強く、それが北陸での学力上位の原因とも言われていますが、実際にそういった特質が数字としても現れているようです。ただし、北陸地方は学校の充実度に問題はあるようで、何もかも良いというわけではないようです。

 

地域が連帯性を失ったという状態を著者は「地域陥没型」と呼んでいますが、東京など南関東と大阪など関西はまさにその状態に陥っているようです。

 

このような状況で安泰とされているのは、北関東、愛知を除く東海、岡山鳥取といったところでした。

 

これは著者の設定した方法論による調査結果ですから方法が違えば別の結果が得られるでしょうが、直感的には各地域に対して持つイメージがそのまま現れているようです。

私の今住んでいる熊本は、学力体力等はほぼ全国平均、いじめ容認、不登校といった逸脱行動は平均よりかなり低いという望ましい状態だそうです。

また環境でもほぼ全国平均ですが、中では学校の相談員設置率と学校充実度(これはアンケート調査の数値化)がやや低いようです。

まあ、それほどひどくはない状況といったところでしょうか。

 

学力や体力の地域差といったものは最近でも学力テストの結果の公表といった問題とともに語られることがありますが、それを見て学校でさらに補習を増やすなどといった対応になりがちです。しかし、その遠因となる家庭環境や学校環境といったところに目を向ける必要がありそうです。