カバーの美少女の写真に惹かれて図書館で借りてしまいました。
その人は10代の頃の原節子さんでした。
しかし、中身を見てびっくり。太平洋戦争の戦前、戦中の写真がたくさん掲載されているのですが、そこに付けられた説明が「笑顔で勤労奉仕に励む女学生」とか、「休暇を返上して傷病兵のみなさんの慰問」とか、ちょっと驚くほどの時代錯誤ぶりでした。
著者の意見では、「戦前戦中の日本が暗黒の時代であったというのは嘘であり、国民は明るく国策遂行に協力していたという真実の姿を知ってほしい」というものです。
写真のほとんどは当時の「アサヒグラフ」に掲載されていたものです。
アサヒグラフが戦前から発行されていたとは知りませんでしたが、実は大正時代から続いていた(2000年に出版休止)写真雑誌の老舗だったそうです。
そのような写真ジャーナルであっても戦時中は国策に沿った内容であったのでしょう。それを持ってきて「このように暗黒と言われる時代でも人々の表情は明るかった」と言われてもね。
これらの写真を見てすぐに感じるのは「現在の北朝鮮の報道映像にそっくり」ということです。今の北朝鮮の人々の気持ちを察すると、当時の日本人の心情を想像するのもたやすいことでしょう。
まあこの本の内容には相当な問題はあるとはいえ、この時代は私の父母の若い頃と重なります。戦争の映像というものはあるものの、庶民の生活というものを写した写真などはあまり見る機会が無いものでした。その意味では内心はどうあれ明るい表情で現れてくる人々の姿というものを見ることができたという意味だけはありそうです。
本書の最後の部分は、ここだけはアサヒグラフからではなく「東京大空襲秘録写真集」という書物からの引用ですが、空襲による犠牲者の姿を露わに写しだしているものです。
そこには、民間人も無差別に爆撃で虐殺する「人道に反する戦争犯罪であった」と書かれています。
この部分は実にもっともな論旨です。
世の中には右翼であると称しながらアメリカに対しては平身低頭の姿勢しか取れない「偽右翼」(某首相を含む)が多いのですが、この点だけはこの著者は姿勢が一貫しているものと感じます。
民間人の多い都市に対する無差別爆撃は、実は日本軍による中国重慶の爆撃が先行していたようですが、その後はアメリカ軍によるものが大多数であり日本の各地やドイツのドレスデンで大規模に実施され、最後に原子爆弾により広島長崎が攻撃されました。
これらは民間人の虐殺を禁じた国際法に反する戦争犯罪であるというのが正論でしょう。
そんなわけで、この本は多くの部分では噴飯物というべき内容だったのですが、最後のところで一矢報いたと言うところでしょうか。