爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ルポ コールセンター 過剰サービス労働の現場から」仲村和代著

コールセンターというと、企業の消費者向けの電話相談を受け付けるもので、最近では人件費節約のために沖縄など過疎地に立地することが多いが、給料も安く厳しい仕事で辞めていく人が多いといった話は聞いたことがありました。

そのようなコールセンターについて、朝日新聞記者の仲村さんが色々な方向から取材して本としてまとめたものです。

 

著者はあとがきにも書いているように、現場の記者としては自分でも不向きであると自覚しているそうですが、このような地道な取材で大きなテーマを明かしていくという能力はあるようで、コールセンターというものの持つ問題点を明らかにし、どのように進めば良いかの提案もされています。

 

従業員の条件やモラルにも配慮し優れた業績を上げているコールセンターもあるようですが、やはり多くのところはほとんど非正規雇用の従業員で操業しているようです。

特に人件費の安い沖縄に立地するものが多く、その実態も厳しいものがあります。

寄せられる電話を素早く片付ける方がコスト節減につながるという認識から、件数目標などというもので管理されることも多く、またほとんどがクレームにつながることから、相手が厳しい態度で話してくることもあり精神的に参ってしまい退職する人も多いようです。

 

コールセンターというものは日本でも1980年代に誕生してきました。その契機となったのは明らかに「フリーダイヤルサービス」の開始からでした。

それまでの電話の発信者に課金される制度ではよほどのことがなければ電話をかけなかったものが、フリーダイヤルでどこからでも無料で電話がかけられるということで広く普及してきました。

コールセンターと言っても、問い合わせなどがかかってくる「インバウンド」と呼ばれるものと、勧誘・督促・調査などでセンター側から電話をかける「アウトバウンド」というものの両方が含まれているので、全ての概要がつかみにくく総数も分からず、労働者数も正確には把握できないようです。

また、アメリカ企業のコールセンターはインドやフィリピンなどに置かれているというのも良く知られた話ですが、日本企業の場合は海外展開ということはほとんど進んでいません。日本語を話せる労働者がほとんど居らず、少しでも日本語に訛りがあると消費者が拒否反応を示す傾向があるためだそうです。

 

2000年頃になるとコールセンターというものに認識が高まり、自治体の誘致も盛んになりました。北海道、東北、九州、沖縄が多いということです。

自治体が補助金を出す例も多いのですが、「だれでもできる仕事」というのは誤った認識であり、やはり「優れた人材教育」を考えて末永く操業できるようすべきところ、そこまでの認識を持つ自治体は少ないのでうまく行っていないようです。

 

コールセンターでの仕事は「感情労働」というものに分類されます。

客室乗務員や看護師などもこの感情労働と言えますが、「どんな不愉快な客にも親切に応対しなければならない」という仕事であり、難しいものであるのは言うまでもありません。

これは労働者側から見ても自分の感情というものを切り売りすることになり、ストレスが大きく離職率も高くなります。

だからこそ、専門的な労働者教育を十分に行うことが必要なのですが、実態はほとんどが非正規雇用労働者に任せるという事が多く、使い捨てになりがちです。

 

そんな中、コールセンターというものをより企業に役に立つ存在とするために改革を進めている人々もいるということを紹介されています。

大阪で「情報工房」という会社を立ち上げた宮脇さんという方はすべてのオペレーター(ここではコミュニケーターと呼ぶ)を正規雇用しかかってきた電話は時間をかけて十分に対応するということで経営の役に立つ情報を顧客企業に提供することができるということを実践しているそうです。

今後のコールセンターのあるべき姿を示しているのでしょう。

 

最後に著者はコールセンターが抱える問題は日本の「過剰サービス」状態に発するとしています。

「お客様は神様」という合言葉で多くの企業が顧客対応を進めたために、かえって人々が精神的に疲弊してしまい、互いに思いやる気持ちを持てなくなってしまったのではないかという指摘です。

サービスとは提供してくれる人を見下すことではなく、自らのストレスをサービスする人にぶつけるものでもありません。特に今の都会では多くの人がサービス産業に従事しているために消費者としてはサービスを受けながら自分の仕事ではサービスする側に回ることも多くなります。したがって働く人も幸せでない社会では誰もが幸せを感じられないでしょう。

 

コールセンターという一つの業種からサービス産業全体の問題点まで明かしたすぐれたルポになっていたようです。