爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ヒトはこうして増えてきた 20万年の人口変遷史」大塚柳太郎著

世界の人口は70億を越え、食糧や資源の不足が心配されるという話題は頻繁に出てきますが、それにもかかわらず世界人口と言うものが歴史的にどのように変遷してきたかということはさほど知られていないようです。

本書は人類生態学が専門の大塚さんが約20万年にアフリカで誕生した人類がどのように増えて来たのかと言うことを解説しています。

 

2011年には70億人となった人口ですが、イギリスで産業革命が始まった1750年にはそれは7億2000万人でした。さらにさかのぼり西暦紀元元年頃には2億から3億程度、農耕が開始された1万年前には1000万人以下だったそうです。

人口の増加は20万年前からほとんどの期間で非常に緩やかなものでした。この期間の最後の0.1%になって爆発的に増加したことになります。

 

著者は人口の推移に着目して人類の歴史を4つのフェーズに大別します。

第1フェーズは人類誕生以降、アフリカの地で人口を緩やかに増加させた時期です。

その期間には徐々に石器などの道具を進化させ食物入手の安定化を進めます。

第2フェーズはアフリカを出て世界各地へ移住した時期です。熱帯から温帯・寒帯、さらに乾燥地帯にまで進出して色々な環境に適応する能力を身に付けました。

この期間が農耕を開始する1万3000年前まで続きます。この最後の時期には人口は500から800万人に達したと推定されます。

第3フェーズは農耕を開始して定住し、古代文明の成立から18世紀の産業革命の直前までです。農業により食料の安定的な供給が可能となり、人口の増加率が上昇しました。また文明も様々な発達を遂げました。

第4フェーズは産業革命と人口転換です。これは現在まで続いています。

人口転換とは、出生率も死亡率も高い「多産多死」から死亡率だけが低下する「多産少死」の時代を経て、出生率も死亡率も低い「少産少死」に移行することを指します。

この最大の特徴は途中で経過する「多産少死」の時代に人口が大幅に増加することです。

多くのヨーロッパ諸国ではこの人口転換が18世紀に始まり20世紀前半に終わりました。日本では1880年頃に始まり1950年代に終わりました。しかし、多くの途上国では現在がまさにこの人口転換により人口が激増する時代に当たっています。

 

第3フェーズの間には2回の「人口循環」が起きています。

人口循環とは人口の急増のあとに停滞・減少が起きることを指しますが、最初は紀元200年から500年ほどに起きました。これは中国大陸でもヨーロッパでも大きな帝国の成立で体制が整い、農業生産も増加したことにより人口増加がみられるのですが、その後の混乱や気象条件等により停滞・減少が起きたと考えられます。

2回目は紀元500年から1400年ころまでに起きたもので、農業生産のさらなる発展が起きて人口が増えますが、また政治混乱と気象異変により停滞したものです。

 

第4フェーズではこれまでのところ爆発的な人口増加が起きるだけでそれが停滞・減少する状態はまだ来ていないようです。しかし、これは必ず起きるものなのでしょう。

それがどの程度になるのか、緩やかなもので終わることを祈るだけなのでしょうか。

 

著者の言うように、人口転換というものが起きているのなら少子化問題などと言うものは無いことになります。自然な流れなのでしょう。

それ以上に、多産少死で人口が増えていく時代と言うのが例外的な状態であるということなのでしょう。

非常にすっきりとした説明であり、分かりやすい解説だったと感じます。