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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「誤解だらけの”危ない話”」小島正美著

読書記録 食品問題

我が家で購読している新聞は毎日新聞なのですが、その家庭面などでちょっとまともな記事があると思うと、その署名は小島さんです。

現在は毎日新聞の編集委員ということですが、本書の中でも触れられているように、ご自身もかつては「危険警告報道」を行うのがジャーナリストの本分であると信じて記事を書いてきたそうです。

しかし、それの間違いに気が付き自らの方向性も変更するとともに、報道というものの姿勢についても批判を加えています。

本書は主に食品の安全性をめぐり、報道のどういった点が問題なのかを事例をあげて説明しています。

 

食品添加物や電磁波など、実際はほとんど健康に対する影響がないと思われるものでもその危険性を主張する専門家というものは存在しますが、それをなんの疑問も持たずに報道する記事が後を絶ちません。

たしかに「こういう人がこう言った」というのは事実なのですが、それの裏付けを取るという基本的な行動もなく、丸呑みで記事にしてしまいます。

政治経済などについての記事であれば突っ込んだ洞察をして書く記者が多いのでしょうが、科学関係はとにかく弱いのが報道記者というもののようです。

 

さらにメディアそのものの持つ性質があります。それは「消費者の不安」というものを取り上げて商品としての報道を売るということです。

いろいろなネガティブ情報があるため、消費者はリスク情報というものに過敏に反応します。そのためにメディアの報道もリスクについて触れると売上が上がるということになり、商売のためにはメディア側もそれを目指すということになります。

そこでは、当然ながらほとんどの「安全情報」というものはニュースになりません。そのために一度危険と報道されたものはいつまでたっても消費者の頭に残ったままになることが多くなります。

 

大きく捉えて現在の我々の抱えるリスクの高いものは「生活のリズムが乱れる」「アンバランスな食事」「野菜の摂取不足」「食中毒」「運動不足」「睡眠不足」「精神的なストレス」「うつ病」「毎日の歯磨き忘れ」「交通事故」「アルコール摂り過ぎ」「子供の感染症」「過労」「家族間のコミュニケーション不足」などです。

しかし、こういったものは面白いニュースにはなりにくく、よほどの物でないかぎりは報道されにくいようです。

 

リスク報道の欠点というものに、ベネフィットの無視というものがあります。

薬などの副作用は過大なほどに報道されますが、その薬を使って減った患者数などについてはほとんど触れられません。

タミフルの副作用という問題でもその危険例ばかりが報道され、それで救われた命ということは無視されました。インフルエンザワクチンでも同様です。

科学的なデータの検証によると、インフルエンザワクチンの副作用問題が起きてその摂取が停止した結果、少なくとも800人の死亡者が増加したそうです。これもその副作用報道のためだったかもしれません。

 

遺伝子組み換え食品というものは日本では流通していませんが、ある生協のカタログには「調味料が非遺伝子組換えだ」と強調してあったそうです。そもそも日本には遺伝子組み換え調味料などというものはどこでも使われていません。それをわざわざ強調して買わせようという姿勢もおかしなものです。

このように、報道ばかりでなく商品を売り込もうというメーカーや販売者もいろいろと問題のある行動を取ります。

しかし、これにもやはり報道記事の方向性が関わってきているようです。

 

このような報道記者の姿勢というのは広く見られるそうです。そして、問題はその記者自身がそのような行動の問題点に気づかず、本人は正義感に燃えて社会の隠れた悪を暴いたつもりになっていることが多いようです。

記者の勉強不足や裏付け取材の不足ということから起こるのですが、それ自体に気づくだけの知識がそもそも不足しているようです。

 

さらに、記事を書く際にできるだけ分かりやすくしたいという思いから、善悪二分論型の思考に陥りやすく、結果的に間違った印象を強くすることも多いようで、これも現在のメディアの問題点になっています。

過去から続く習慣的な思考法(ヒューリスティックス)により悪と決めつけたもの(食品添加物であったり、電磁波であったり、化学物質であったり)は悪いという基調で書いていけばわかりやすいのは確かですが、間違いだらけになります。

 

こういったメディアの間違いというものは無数にありますが、これを止めさせる行動を取らなければいつまでたっても治りません。

ここで著者が上げているのが、アルミニウムメーカーが作る団体が地道に続けている行動です。

アルミニウムの鍋や食器がアルツハイマーに関係するなど有害であるということは現在ではほとんど否定されていますが、相変わらずこのような報道をされる場合が多いようです。それに対しメーカー団体は一つ一つに対して反論し掲載を訂正するように申し入れているそうです。いつまでやってもきりがないといって何もしなければ変わりません。徒労のようでもその努力が必要なのでしょう。

一方、著名な女性弁護士が3万円のバッグを盗まれたそうです。日収が10万以上にもなる人ですので警察に届ける手間ももったいないと思い被害届も出さなかったところ、さらに何度も盗難にあったそうです。犯人はどうせ盗まれても何も言わない人だから盗みやすいと判断したということです。

一時、ステロイド剤の副作用ばかりを取り上げる報道が相次ぎ、患者の間でもステロイド剤の忌避が行き過ぎるという問題が置きました。医者のほとんどはそのような事態にも何も語ろうとはせず、悪化する患者が増える一方だったのですが、一人の医師が精力的に活動し、ステロイド剤の適切な使用で症状悪化を防げることを熱弁してくれたおかげで状況が好転したそうです。

 

報道の姿勢というのはどうもなかなか変えられるものではないようですが、おかしな報道に対しては強く反論するということが必要になっているようです。