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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「漁業と言う日本の問題」勝川俊雄著

著者は三重大学生物資源学部の准教授ということで、水産資源管理と解析が専門とのことですが、日本にはそれを研究している人はほとんどいないそうです。

 

日本の漁業は衰退しているというイメージは誰もが持っているでしょうが、その原因としてよく言われているのは「消費者の魚離れ」ということです。しかし、これは実態とはかけ離れたもののようで、明治末期から大正時代にかけては年間の魚消費量はたったの3.7㎏でした。やや減少しつつある現代でも年間30kgは食べています。もともと魚をたくさん食べていたわけではありません。

日本人が大量に魚を食べだしたのは太平洋戦争後の食糧難時代だったそうです。

 

水産物消費の動向を見ていくと、ここ数年で非常に減少しているのは事実です。しかし、その原因は輸入量の減少であるというのが本当のところです。これは欧米各国や中国で魚の消費量が急増しており、そのために価格が上昇して買い負けしているためのようです。

 

水産業の実態を見る上で、著者はまず「国産天然魚」「国産養殖魚」「輸入魚」に分けて解析します。

国産天然魚は戦後急激に漁獲量を上昇させ、1980年代後半に1000万トンで最高に達しますが、その後減少し現在では400万トンまで落ち込んでいます。

これは上述のように戦後の食糧難対応のために国を挙げて漁獲増加に取り組んだためで、日本近海はあっという間に漁業者で溢れ、余剰漁獲能力をどんどんと外洋の未開発漁場開拓へ向けました。当時のスローガンで、「沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へ」です。

しかし、1970年代に入り世界各国が沿岸200カイリの排他的経済水域を設定するようになり、遠洋漁業は減少の一途をたどることになります。

ちょうどそのころにマイワシの奇跡的な豊漁があり、一時はマイワシだけで年間400万トンも取れたそうですが、その後マイワシも激減、その他の魚種も消滅の危機にさらされて行きます。

国産養殖魚を1970年以降に水産政策は推進していきます。「とる漁業からつくる漁業へ」というキャッチフレーズも良く耳にしたものですが、実際は日本の養殖漁業はビジネスとしては破綻しているそうです。生産量、生産金額ともに近年減少しており、廃業する業者が相次いでいるようです。

養殖漁業には「無給餌養殖」と「給餌養殖」があり、文字通り人が餌をやるかどうかということで、無給餌養殖にあたるのは昆布・ノリやホタテ・カキといったもので、こちらは今後も生産は順調と見られます。

しかし、給餌養殖では生産する魚類の数倍から数十倍の餌としての天然魚が必要となり、それの確保ができなければ続けることはできません。養殖の餌はこれまでは奇跡的に取れ続けたマイワシの支えられました。それが減少したらもはや餌にできるものはありません。

 

輸入魚については、本書後半でも解説されていますが、生産自体は順調に行っているところも多いのですが、他国の水産物消費量の増加ということもあり、価格が高騰していっている傾向がこれからも続きそうです。

このように、水産物の供給と言うものは非常に危ういものになってきています。

 

日本の漁獲量は減少していますが、その原因としてよく言われているのは1地球温暖化、2中国や韓国漁船の乱獲、3クジラ類の食害です。

しかし、水温の上昇があったとしても水産生物は分布に変化があったとしても資源量の減少につながるとは考えられません。事実、他の国の漁獲量にはその影響による変化は見られません。

中国・韓国の漁船の違法操業は日本海側では大きな問題となっていますが、太平洋側ではまだその影響が少ないにも関わらずそちらでも資源の減少は見られます。

クジラの食害説というのも科学的な証拠は見られません。

 

日本近海の水産資源量の急減の原因は「日本漁船による乱獲」であると著者は主張します。東シナ海での資源破壊やブリ類の早獲競争など、それを示す証拠は数多く存在します。

日本漁船は中国船などと違って乱獲はしないという印象を持たれることもあるようですが、事実はまったく異なるようです。

 

このように見ると漁業というものには未来が内容にも感じますが、実はノルウェーニュージーランドアイスランドなどでは水産資源の回復が顕著であり、魚価も高く、十分に漁業者が操業できる体制ができているようです。

このための方策は1控え目な漁獲枠の設定、2漁獲枠をあらかじめ漁業者に配分しておくことだそうで、上記の各国もこのような施策に取り組みそれが成功しつつあるようです。

漁獲枠の設定では、海中の水産資源量の推定とそれに応じた漁獲枠決定と言う段階がありますが、資源量推定といっても誤差は相当大きいのが当然であり、したがって漁獲枠も低めにしておかなければ危ないようです。

漁獲枠配分では、現在の日本や、諸外国でも昔は総枠だけを決めてヨーイドンで皆で競争して操業する「オリンピック方式」で行われましたが、早獲競争に陥り漁期がどんどんと短くなり、結局は魚が成長する前に取りつくして終わりということになりました。

そうではなく、魚業者ごとに年間で取ることができる漁獲枠を決定してあとはそれを守って操業すれば漁獲が集中して魚の価値を下げることもなく、計画的に操業できるので漁業者の利益も大きくなるということのようです。

これをIQ(個別漁業枠)制度と呼び、1990年からカナダ政府により導入されたのが始めだそうです。また、漁業枠を売買できる権利を取り入れたものもあり、これはITQ制度と言うそうです。

 

IQ制度が水産資源の保護と適正な漁業操業につながるのは明らかなのですが、日本では水産庁と漁業組合を中心にその制度に反対する勢力が強力であり、漁獲量管理もTAC制度(総漁獲枠)という時代遅れの政策のみのようです。

総漁獲枠の決定自体も科学的な根拠なしに行われていることがあるようで、資源量を越えたTAC設定などと言うこともあったということですし、漁獲枠を超えた漁獲も野放し状態です。

 

このような漁業の現状ですが、あまり一般には知られていないようです。そこには情報を統制するメカニズムが働いています。

漁業と言うものは岸から遠く離れた海の上で行われているのでなかなか人の目に触れません。報道機関もその実情を実際に目にする機会は少なく、公式発表だけがニュース源となる場合も多く、都合の悪い情報は隠すことが多いようです。

また、水産研究者も批判的な発表をすると情報入手にも妨害が入るようになり、研究が続けられなくなるという世界だったそうです。

数年前に石油高騰のためにイカ釣り漁船が大規模なストライキを行ったことがありました。その結果、燃料補填の補助金を獲得したのですが、その報道も燃費高騰で困ったということばかりを伝えました。しかし、実はイカ釣りには強力な光源を使用してイカを集めるのですが、その必要光量をはるかに超える光源を使用しており、その理由は他の漁船より明るくしてイカを集めたいというものだったのです。過当競争がなく、適正な光源を使って入ればそれだけで燃料費ははるかに低く抑えられるものでしたが、そこを報道したメディアは一つもありませんでした。

 

今後の日本漁業の建て直しのためにも、IQ方式の漁獲枠設定が必要なのですが、水産庁はあれこれと理屈をつけて反対しています。

「漁獲量の把握には莫大な費用がかかる。」

 といっても実は現行のTAC制でも同様であり、それができていないのであればそちらが問題。なにしろ、水産先進国では問題なく実施しています。水産関連予算を使いもしない漁港整備などに使うよりはこちらに使う方を選ぶべき。

「大業者に漁獲枠割り当てが集中し、漁村が崩壊する。」

 これも明確な誤りであり、公平に漁獲枠を配分すれば漁村はかえって存続しやすくなります。

 

著者はこのような水産資源管理から水産業の復興を図ることが重要であると考え、「勝川俊雄公式サイト」

勝川俊雄公式サイト

というサイトを立ち上げて情報発信をしていますが、他の業界の人からも水産業で見られるような監督官庁と民間団体の馴れ合い(そして天下り構造)が「うちのところでも」という声が聞かれるということです。

本当に日本のガンになっているのはこういったところなのでしょう。

とにかく、水産業の問題点について広く国民が知り、声を上げることが必要なのでしょう。