爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ドキュメント 単独行遭難」羽根田治著

単独行とは特に登山の場合に一人だけで登ることを言います。
単独行の登山者の遭難の割合は高いと言われており、2011年には遭難者総数2204人中単独行は761人、死者行方不明者は275人でそのうち単独行は154人となっています。登山者総数というものが分からないために一概には言えませんが、かなりの高率であると考えれらています。

著者は「山と渓谷」誌などにも遭難についての文章を書いているフリーライターで、特に登山遭難についての事例を調査し広めることで登山者の意識を少しでも高め、遭難に至るような行動を阻止したいという活動をしています。
そのため、遭難経験者に直接話を聞き、その経緯と反省点などをまとめ、「山と渓谷」に連載されていたそうで、それを中心に本書をまとめました。
したがって、本書に紹介されている遭難事例はすべてなんとか生還したものばかりです。

すべて単独行の登山者で遭難した7例を紹介していますが、そのうち2例は途中で滑落して負傷し歩けなくなっています。これが一人だけでの単独行登山の最大の危険性であり、数名のパーティーであれば全員が滑落という事態はほぼありえず、それで即死ということになればともかく、たとえ負傷して歩けなくなっても無事なものが安全なところまで抱えて運び、その後救援を求めることもできるため、危険性は相当減ります。
しかし、一人で負傷し歩けなくなった場合は通信できればともかく、それも不可能な場合は連絡もできず、一例では15日間たってようやく見つけ出されるということもあったそうです。しかもその例でも滑落して落ちた先の渓谷で動けなかったために雨による増水で流されるという危険性もあり、実際にヘリで助け出された直後に倒れていた場所は増水で流されたそうです。

他の例は道の間違いですが、これもパーティーであれば分かれ道での選択も討議でき、間違いの確率も格段に下がります。一人で歩いていると思い込みで進むことが多く、またそれを振り返るということも意識しなければできないことになり、難しいようです。

なお、最近の中高年の登山ブームでも単独行をする人が多いということもあるようですが、本書に取り上げられている人々はそれほど年を取った人たちではないようです。しかも相当な登山経験を持っている人ばかりなのですが、そのようなベテランでも気のゆるみや過信で判断を誤るということがあり、その結果として遭難してしまうということになります。

山岳関係者からは常々指摘されている単独行登山の危険性ですが、それでも減らないのはやはり他人に縛られるパーティー登山というものとは違う自由の良さと言うものがあるのでしょう。しかし遭難してしまえば元も子もありませんので、最低限の対策(装備、登山計画書の提出、通信手段の確保等)は必ずしていただきたいものです。

著者はこのような遭難経験者自身からの聞き取りで啓発の記事を書いていますが、このところの個人情報保護の風潮のために遭難者との接触というものが極端に難しくなってきたそうです。こういった文章を読めば登山者は必ず注意するところを見出し、遭難の低減につながることは確実と思います。それを邪魔するだけの個人情報保護とはいったい何のためのものなのでしょう。行き過ぎはかえって皆の利益を阻害します。