爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「徹底批判!! ここがおかしい集団的自衛権」高作正博編著

少し前に「集団的自衛権とは何か」という本を読みましたが、http://d.hatena.ne.jp/sohujojo/20150719/1437253472 それは2007年の出版で第1次安倍内閣の策動が明らかになりつつある時のものでした。
今回読んだ関西大学の高作教授が中心となって書かれた本書は2014年のもので、今回の安倍内閣の強引な解釈変更により法制整備が進みつつある状況でのものです。
どちらも首相の言うように国民に理解してもらいたいという屁理屈は論外であり、法的な解釈では憲法違反であることは明白である以上に、これまでの戦後日本の歴史を振り返ると集団的自衛権というものをアメリカの作った日本国憲法を楯に拒否し続けてきた経緯が明らかであり、アメリカ側の都合で認めさせられるということは極めて危険であるということでしょう。

本書では誰もが抱くような疑問について答えるという形で項目別に書かれていますが、最初は自衛権、個別的自衛権集団的自衛権というものはどういうものかと言うことを国連憲章から説き起こし、さらにこれまでに集団的自衛権行使として行われた戦争の数々(ソ連ハンガリーチェコスロバキア介入、アフガニスタン侵攻、アメリカのベトナム戦争アフガニスタン侵攻等々)について解説しています。
またこれまでの政府がどのように集団的自衛権と対処してきたかを解説しています。
さらに、日中・日韓関係の悪化を集団的自衛権の必要性の理由としていますが、それがかえってアメリカの疑念を呼ぶかもと言うことです。

本書の中で覚えておくべき内容を列挙しておきます。
武力攻撃があった場合に自衛権を行使できるとされていますが、その「武力攻撃」にも定義の違いがありそうです。典型的な解釈では国家の正規軍が外国領域で攻撃を行うこととなります。したがって、犯罪者集団が行うテロ攻撃と言うものは武力攻撃とは言えず、その集団の本拠地のある国に対して自衛と称し武力行使をすることはできません。あくまでも犯罪を鎮圧するのは警察の仕事ということになります。
集団的自衛権が無くても軍事組織の海外派遣は「国際法上」禁止されているわけではありません。集団的自衛権とはあくまでも領域外における軍事活動を正当化する1つの根拠に過ぎません。
アメリカが集団的自衛権行使を日本に迫っているのは、あくまでも日本の軍事化を望んでのことではないようです。その要求は独自の戦略を持つことは求めず、アメリカの構想の枠内で動くことだけです。特にアメリカの財政難での軍事行動の制限はますます強くなっており、それを補完することを求めているとみられます。

どこをとっても非常に精緻な論議であり、首相の主張しているものは児戯に等しいと言えるものです。国会内は現状ではどうしようもありませんが、それ以外での議論の盛り上がりを期待したいものです。