爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本経済新聞は信用できるか」東谷暁著

著者はフリージャーナリストとして主に経済関係の本も数々出版されているようです。
この本は日本経済新聞という、ほぼ日本で唯一の経済専門新聞社の報道姿勢について非常に批判的に書かれていますが、この出版はかなりの困難を伴ったということです。
日経もスキャンダル、不祥事の暴露といったものと無縁ではありませんが、著者はそういったものではなく、本来の新聞社の報道姿勢と言うものを正面からとらえた本書を出版したいという思いを強く持ち、さまざまな出版社に持ち込んだものの、どの社もしり込みをしてしまいなかなか陽の目を見ないまま時が過ぎてしまいました。その後、噂を聞いた「正論」の編集者から連載で掲載という話が来て、ようやく2004年に発表され、また単行本化も決まったということです。

日本経済新聞はその系列の新聞とともに、経済についてのメディアとしては日本で強大な勢力を誇っており、それ以外のものはいくつか弱小出版社があるばかりとなっています。したがって、ほとんどの社会人は毎日のようにこれらの新聞に目を通していると思いますが、著者もそのように読んでいてその内容に大きな問題点を見出したそうです。一言でいうと、日本の経済界の現状を批判する姿勢なのですが、その基準と言うものがアメリカ頼り、また流行に乗るだけで無定見にころっと変わってしまい、それについての反省も全く見られないということです。
私も会社勤務の頃は会社で購読している日経新聞を時折読むこともありましたが、退職後はまったく見ることもなくなりました。読んでいる当時はそれほど違和感を感じることもなかったのですが、このあたりは経済人とも言えなかった自分とジャーナリストの本書著者の大きな差でしょう。

本書の内容は1997年頃から2003年まで書き溜めたものということなので、その当時の経済状況についての日経新聞グループ報道姿勢についてを論じています。したがって、現在ほどは中国の存在感は大きくなく、ソ連の解体でアメリカが唯一の覇権国となった状況であり、その中で日本に対する経済的な要求も強かった時代ですが、日経はアメリカの意図を正義として日本に変化を求めるという姿勢が露わに出ています。
その当時にはすでに相当崩れかかっていた「年功序列」ですが、92年ごろから日経は「年功序列」と「年功賃金」の区別もはっきりとさせないまま攻撃を強めたそうです。高度なスキルを持つにはある程度の経験が必要なのは当然のことなので、「年功賃金」というものは世界のどこでも普通にあることですが、それを「年功序列」と意図的に混同させながら攻撃し、アメリカ流の「成果主義」のみが正しいとして持ち上げていったそうです。
実は日本でも「年功序列」などというものは言われるほどには存在せず、また「終身雇用」などと言うことも実態とはかなり違っていたようで、日経が執拗に攻撃していた「日本型経営」などと言うものは実際はほとんど実態のないものだったというのが著者の主張です。
しかし、そのような日経の成果主義礼賛に影響され多くの日本の企業も賃金体系などをその方向に変化させていきました。その結果かえって労働者の効率は低下していったそうです。
この辺の事情は、私自身の会社経験でも実感を強く持つところです。勤めていたボロ会社も一人前を気取り成果主義体系の賃金・評価システム採用などとあれこれと手を出して、結局混乱を引き起こしただけでした。その結果半ば破綻して大会社に身売りし今では見る影もなくなってしまいました。成果主義だけが失敗の原因ではないでしょうが、まあ無関係でもないでしょう。

もはや遠い昔のことのようにも感じられますが、レーガン大統領が「レーガノミクス」と言う改革で見た目は上向きになったことがありましたが、日経は90年代後半にレーガノミクス礼賛の風潮を主導したということです。
レーガノミクスの正体については他でも多く論じられており、まったく成功ではなかったというのが本当のようですが、その仮面の成功をもって日米構造協議なるものを仕掛けてきたのが当時のアメリカ政府でした。
そのお先棒を担いだのが日経新聞グループであったようです。
ちょうどバブル後の低迷が続いていてため、それも日本型経済構造の問題であるかのような論議をし、規制緩和などの政策が必須と叫んでいたわけです。
しかし、その実態はアメリカ主導のグローバリズムに世界すべてを合わせようとする要求であり、それすら分からないかのように論じていた日経新聞は日本の利益と言うものを考えていなかったということです。

日本経済新聞というものは、たいていの人にとっては「でも・しか」読者としての付き合い方しかしていないそうです。ほかにまともな経済紙もないために、否応なしに読んでいる人が多い中、著者が提案している「日経新聞の賢い読み方」です。
まず、「観測記事には注意」 日経にはしばしば事実のような書き方で「観測記事」が掲載されます。検討されているだけのものをあたかも実施が決まったかのように記事にする例が多数あるようです。
さらに「冒頭と最後が矛盾する記事」も多数みられるようです。ここまで行ったらもう読まない方が良いようですが。
アメリカの制度をむやみに理想化して語る記事も多くありました。これも要注意。
日本・消費者・アメリカの三段論法にも気を付けろということで、アメリカが望むことは消費者のためになり、日本にも良い。という言い方をすることが非常に多いということですが、これも眉唾ものです。

まあデータは見るにしても記事はほとんど読まない方が良いということのように思えます。