爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「再読:”わかりやすい経済学”のウソにだまされるな!」益田安良著

2013年2月に書かれたこの本を2013年9月に読み、その読書記録も書いていますが、それを読んでみるとあまり深い感慨を抱いておらず不十分な読み方であったと思います。まあこの2年弱の間に経済関係の書物も数多く読んできて、少しは目も肥えてきたということでしょうか。

2013年というと安倍政権が金融緩和をタネに選挙で大勝利し、意気揚々とアベノミクスを始めた直後でしょう。本書もその危険性も挙げています。
それを読んだその年の9月にはすでにかなりの「成果」(カッコつきの成果と言うべきものでした。それは現在でも変わりません)を得られたと言われていたころです。

著者は銀行での勤務のあと大学に転身ということで、現実の金融について熟知しているということでしょう。したがって経済学者と言われる人々の議論についても的確な批判を次々と挙げています。
その批判のもととのなるのは、5つの視点です。合成の誤謬、時間軸のずれ、セクターの違い、モラルハザード、社会目的との相克。これらを忘れた議論はその場限りではうなずかせるように見えるものの、よく考えれば大きな穴があるということです。

例えば「消費税増税より景気対策が先」というのは、時間軸のずれが関わってきます。短期的には効果は出ても長期的にはマイナスになるのが景気対策であり、それに費やす費用の後になってのマイナス効果も考えなければなりません。
「金融緩和でデフレ脱却」は本当にできるか。これは現在も続いていますが、「できた」と政府や日銀は主張したいのでしょうがそううまくはいかないでしょう。本書ではそれを経済的な背景から解説しており、またほとんどただで資金を確保できる金融機関のモラルハザードを懸念しています。
まあ現在の「異次元金融緩和」で得られたと言われる経済効果は経済学的なものではなく、心理学的なものでしょうから、この本の解説とは少々ずれもあるようです。それだけ現在の状況は欺瞞に満ちているとも言えそうですが。

ただし、この著者は経済学の判断は非常に正確であると思いますが、それだけでは片付かない問題については的確な提言はできていないようです。
「雇用保護は労働者にプラスか」にはかえって保護した労働者の雇用を減らすのでマイナス。
「年金関係の制度改革は世代間対立の火種」
最低賃金生活保護の複雑な関係」など、経済的な目から見ただけでは収まらないのは「不公正」を許さないという姿勢なのですが、それは見られません。あくまでも「現在の」経済を正確に判断するという立場だけとも言えるでしょう。

「現在の経済」なんてただの「現実」じゃないか。というべきところです。しかし「どうすれば正しいのか」ということを考える資料としては良い資料だったと言える本だったということでしょう。何の参考にもならないクソ本が多いですから。