爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来」グナル・ハインゾーン著

この本は非常に恐ろしい内容を含んでいます。しかし、よく考えればこの著者の見方というものが実は妥当なものであり、真実に近いのかもしれません。これをきちんと考えずに上っ面だけ見るような社会観察をしていてはいつまでたっても結論には至らないのかもしれません。

著者はポーランド生まれで社会学・経済学等を専門としていましたが、ドイツで世界初となる「ジェノサイド研究所」というものを立ち上げ、そのような人類の暗部ともいえるものを対象に研究をされたということです。
本書もそういったものと非常に深くかかわる内容になっています。

本書は2008年の出版ですが、(原著は2003年)当時も現在も変わらずに世界中でテロが頻発しています。これについては、イスラム原理主義や過激主義の影響、民族主義の過熱など様々な解説が加えられていますが、著者はそこには「ユース・バルジ」(Youth bulge)の存在の影響を強く感じています。
ユース・バルジとは、ある民族の人口構成を見るための「人口ピラミッド」という図を作成した際に、「外側に異様に膨らんだ部分」を”バルジ(膨らみ)”と表現するのですが、それが若年層である場合を「ユースバルジ」と言うということです。
実はこのようなユース・バルジの状態を示す国・民族は非常に不安定で危険な行動を起こす可能性が強いということです。これまでの歴史でそのような状態になった国・民族を見るといずれもユース・バルジが極端に増加するという状況になっています。
ユース・バルジというのは結局のところ、「次男・三男以下の男子」ということです。彼らは親の職業や地位をそのまま継ぐことはできないために、それをどこかに求める行動を取ろうとします。それが大きな活動となります。

歴史的にユース・バルジの影響が最大だったのは、実は近代のヨーロッパです。停滞したと言われる中世の終わりにペストが大流行し人口が急減しました。そのあとに人口の急増した時代がやってきたわけです。さらにちょうどそのころに堕胎や避妊、間引きなどを禁止するという傾向が強くなり、一気に人口が増えるという事態になったそうです。14世紀のペスト禍で7500万から4500万人まで減少した人口はその後急増に転じ、15世末には爆発的に増加しました。
その当時のヨーロッパの一人の女性が一生に産む子供の数(合計特殊出生率)は5から6.5に達していたそうで、現在その値であるのはアフリカだけだそうです。
このようなヨーロッパの人口爆発はヨーロッパ各地での殺害を伴う騒乱を多数引き起こしただけにとどまらず、世界征服と植民地化というものにつながってしまいました。私は当時のヨーロッパの世界征服はヨーロッパ人種特有の凶暴性によるものだと思っていましたが、実はこの「ユース・バルジ」つまりくいっぱぐれの次男・三男以下の連中が引き起こしたもののようです。

実はその小型のものは日本でも明治以降起こっていました。その当時は6-7人兄弟と言うのが普通だったというのは誰もが自覚しているところです。そしてそこからはみ出した人々が大陸などに流れ出して戦争につながりました。
この時の人口急増の原因というのもヨーロッパ同様不明のようです。

しかし、これまでのものをはるかに超える規模のユース・バルジがアフリカや中東、インドなどでまさに現在起きています。(中国には周知のように存在しません。南米はすでに最悪の状況は過ぎたようです)
これらのバルジがどこに向くか。一部は過激派となってテロを起こしているのは間違いありません。穏健な連中でも難民や移民としてヨーロッパなどに流れ込もうとしています。これからさらに凶悪な事件が起きていくのは間違いのないことのようです。
それに対するヨーロッパやアメリカの軍隊は皆「一人っ子の兵士」ばかりです。とても戦いの相手にはなりそうもありません。
今後、どのような事態が起きていくのでしょうか。想像を絶するものかもしれません。