爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「トマ・ピケティの新資本論」トマ・ピケティ著

非常に有名になったトマ・ピケティですが、この本は2005年から2014年までリベラシオン紙のコラムとして連載されたものをまとめたものです。
もう1冊「21世紀の資本」というものがあるそうで、そちらの本の方は内容もまとまっているものかもしれませんが、本書の方はその時々の話題について触れてあるということであまりまとまりはありません。
もちろん、フランスの特に内政問題についての記述が多いのでその事情について知らない場合は少し分かりづらいのですが、ピケティが格差拡大に警鐘を鳴らしているということを考えれば納得のできるものもあります。

2009年の記事には「利益・給与・不平等」というものがあり、1998年以降フランスの最富裕層の購買力は数十%の飛躍的な伸びを示したのに対し、90%のフランス人では購買力が4%しか伸びていないそうです。この要因には高所得者を優遇した税制があるというのが主張です。
同じく2009年の記事に「危機で得をするのは誰か」とありますが、危機になればなるほど富裕層が得をするということです。フランスばかりでなく各国の状況を精査すると、経済危機が起こると富裕層はかえって富を集めるということが分かります。銀行などを救済するために公的資金注入ということも各国でされていますが、これもその原因の一つになっています。
2011年、東日本震災の直後の記事では日本の経済についての記事があり、巨額の政府債権残高について触れてありますが、ヨーロッパの常識からは遠く離れた状況には驚くでしょう。民間部門が金持ちで政府部門が借金まみれという不均衡はやはり危機につながるだろうということです。
2013年の「IMFに物申す」では、累進課税というものについて触れています。これまでは「フラットタックス」という低所得も高所得も関係無しに同じ税率という、一見公平に見えながらとんでもない不公平(不公正)な税制を推進してきたIMF累進課税に転換したかということでしたが、実際はどうだったのでしょうか。
2014年「アメリカの寡頭政治」に引かれている数字、現代アメリカの上位1%の資産の占める割合は実は16世紀からの絶対王政時代のフランス(アンシャン・レジーム)の当時の上流貴族の資産の占める割合とほぼ同等になっているそうです。ひどいものです。

やはりかなり面白い内容ですが、コラム用ということでまとまったものではありません。「21世紀」の方も読んでみたいものです。