爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人はなぜ太るのか 肥満を科学する」岡田正彦著

私も実は昔から少し肥満気味で、病気に近いところまで行ってしまい病院で栄養指導を受け食事療法をしたこともあります。幸い現在はほぼ標準体重と言えるところまで落とすことができていますが、油断をすると徐々に増えてくるという体質で、悩まされています。

本書著者の岡田さんは大学医学部の教授で予防医学が専門であり、健康診断で異常判定された人の指導といった方面での専門家ですが太るか痩せるかという問題についての一般の理解が乏しいということも分かっているようで、新書版の本書で太ること全般についての概説をされ、基礎的な知識を身につけさせようという意図のようです。

肥満の仕組みというものの基礎は食物の栄養というものはどのようなものかということで、食物の摂り方ということが一番大切なものになります。
まず、基本的には三大栄養素のタンパク質、脂肪、炭化水素について考えるわけですが、それらの栄養学的な価値というものは重要なのですがとにかく「太るかどうか」だけで考えると脂肪が一番問題になります。
タンパク質はアミノ酸となって体に必要なタンパク質合成のために使われるのですが、必要以上に存在するものはすぐに分解され排出されるので太る要素にはなりません。
炭化水素は分解されて糖となり、エネルギー源となりますが、残ったものはグリコーゲンとなって肝臓や筋肉に貯蔵されます。
脂肪は分解され脂肪酸となり、アミノ酸と同様に体の各部分の合成の原料となりますが、脂肪酸から安定化した中性脂肪となると非常にエネルギーの高い状態となります。これは貯蔵するには最適の形態であるために、これを体の各部分に貯めて飢餓状態に備えるような働きがあります。これが肥満というものの起こる原因になります。
ただし、脂肪にもさまざまな種類があり飽和脂肪酸不飽和脂肪酸などが多種あります。これらは少しずつ性質が違い人体に対する作用もそれぞれ異なるので、どれかが健康に良いとか悪いとかいう説が次々と出現しますが、決定版という学説はまだないようです。したがって、その時々の新説に振り回されても困ったことになるようです。

炭水化物も種類により血糖値を上げる作用が異なることがわかってきました。ブドウ糖を直接摂取するともっとも食後の血糖値上昇が速いのですが、炭化水素の食物中の存在状態や形態により遅いものもあります。これを数値化したものがグリセミック指数というもので、高いものは精白度の高い小麦から作られたパンなどで、遅いものではピーナッツ、牛乳、スパゲッティなどということになるようです。
血糖値が急激に上昇しやすいものは糖尿病や心筋梗塞を起こしやすいということがあるようで、避けた方が良いのかもしれません。また肥満するかどうかにも影響がありそうです。

なお、肥満に関係する体質については遺伝的な要素も非常に大きく、また多様な性質が絡み合っているようです。したがって、一時言われたような「肥満遺伝子」などというものは特定はできず多くの遺伝子が相互に働きあってできているようです。そこのあたりにも肥満というものの解析の難しさがあります。

肥満の測定というものにはいろいろな尺度が考えられていますが、現在は通常はBMIで言われているようです。これが22程度が標準ということですが、これも個人の体格を考えていくと相当な差があり、筋肉の多いスポーツマンは高くても正常であったり、ほとんど動かない女性が低くても肥満であったりと欠点もあるようです。そこで体脂肪率で測ろうということもされていますが、これも正確な測定は難しいことや、内臓脂肪と皮下脂肪では健康への影響に大差があるのに、その差の測定が難しいという問題があるようです。

健康的に痩せるためにはどうするか、運動療法と食事療法を組み合わせて行うことが効果的ですが、運動も強すぎるものは危険もあるので歩行や水泳が良いようです。
また、食事を管理して週あたり0.5㎏体重が減るくらいがもっとも良い状態だということです。
いろいろな誤解もあるようで、炭化水素の摂りすぎは肥満につながるのは事実だそうですが、ごはんとパンではグリセミック指数からみてもごはんの方が効果的のようです。
また、アルコールはカロリーとして体に残らないというのは本当のようで、計算上はカロリーが高くなりますが酒類のカロリーはアルコール分を除いて考えればいいようです。

痩せる薬というものもありますが、現在のところ副作用なしに痩せられる薬というものは無いようです。それどころかかなり危険なものもあるようです。
また、手術で胃を切除したり腸を短くしたりといった方法もアメリカなどでは実施されていますが、これもBMI40以上といった超肥満の場合はやむを得ないこともあるのでしょうが、ちょっと太ったくらいで実施すべきものではありません。
その他の痩せると称する健康器具も怪しいものが多いようです。
やはり、食事をきちんと管理してさらに適度な運動をするというのが一番の方法なんでしょう。

さて、本書の冒頭に書かれているのですが、肥満で来院された患者さんが「水を飲んでも太るように感じる」と話すということを著者は「それでもちゃんと食べている」と一蹴していますが、お医者さんの専門的な判断ではその通りなんでしょうが、素人から見るとどうもここに感覚の違いがありそうです。
私も感じていることですが、確かに太り方には個人差が非常に大きい。他人の生活態度を目にしていて、いくら食べても飲んでも、そして運動不足でもまったく太らない人が結構多いというのが実感です。その割には食べたいものも我慢していても自分は痩せない。それはあまりに不公平という感覚を多くの人はもっていると思います。そしてそれがアメリカのように就職の採用や会社での昇進にも関係してくるとなれば平気ではいられません。
おそらく、食べた食物の消化吸収の状態が人により大きく違いがあるのでしょう。テレビに出てくる大食いタレントなどはいくら食べても消化もせずに排泄されてしまうのでしょう。それに引き換え、自分たちは食べたものを100%吸収してしまう。これをどうにかならないのか、といったところでしょうか。
もちろん、この能力は食糧不足の時代には極めて有益な体質であり、小食でたくさん働ける優れた体質なのですが、現代のような飽食の社会でだけ困ったように言われているだけです。

まあ、このような点で一部引っかかることはありましたが、肥満についてきちんと考える基礎を作るには参考になる本だったと思います。