爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「脱法ドラッグの罠」森鷹久著

著者はフリーライターということですが、体当たりで取材をしている様子が見えます。なお、現在は他の分野でも活躍のようです。

脱法ドラッグについては最近それに起因する事故で多数の死者が出るなど大きな問題となっていて、その呼び名も「脱法」では困ると言うことで警察が「危険ドラッグ」と呼ぶようにと言う動きもあるようですが、本書はすでにその話が出たあとの出版であるものの、著者はその本質は「脱法」という言葉にも現れているということで、「脱法ドラッグ」という名称のままで通すということです。
なお、「脱法ハーブ」という呼び方もありましたが、これは主成分である合成麻薬類似成分をハーブにまぶして製品化したということがあったようで、ハーブという名前から天然物と混同させようとする意図があったようで、ハーブなどとは全く言えないものだったようです。

2014年6月に池袋駅前で脱法ドラッグを吸引した男の車が歩行者に突っ込み女性が死亡すると言う事故が起きました。それまでにも3年以上脱法ドラッグの取材を続けていた著者はそれを聞いて状況がそこまで来たと言うことに愕然とし、また楽観視していた自分を腹立たしく感じたということです。
実はそれまでにも数ヶ所でドラッグ絡みの事故で犠牲者が出ると言うことはあったのですが、報道の姿勢としてドラッグを強調することが無かったようでした。そのために社会的な取り組みが遅れてしまったのではないかというのが反省点です。
また、ドラッグを使った本人がそのまま死亡するという事態も頻発しているようです。これについてもあまり知られていないようです。

ドラッグというものは、日本では大麻やヘロインといった植物由来のものと、覚せい剤LSDなどの合成化合物とがあります。脱法ハーブというものは合成化合物を使いながらハーブのように装うことで大麻と同類のように見せたというものです。しかし、その作用は完全に合成麻薬そのものです。
それに使われている成分は「合成カンナビノイド」という物質で、大麻の成分を真似て合成されたものです。その開発は正当な医学研究のために行われたようですが、誰かがその陶酔作用に気づいて使い始めてからおかしなことになりました。
2007年ごろにヨーロッパから日本に輸入され始めたのですが、その当時は彼の地で「リーガル・ハイ」つまり合法の大麻と言われていたために、日本でも「合法ハーブ」という名称で呼ばれました。販売店でも「合法だから大丈夫」と言う形で売られていたのですが、そのうちに内容成分が単なるケミカルドラッグであることが判ってくると「脱法ハーブ」と呼ばれるようになったそうです。
しかし、その時点でも当局の取り締まりはできなかったということで、それこそが「脱法」と言わなければならない理由だったということです。法が追いつかないために取り締まれないというのは「合法」とは言えずせいぜい「脱法」と呼ぶくらいしかないということで、これは現在でも変わらない状況です。したがって、著者は一応公称が「危険ドラッグ」となっても「脱法ドラッグ」と呼ぶことにこだわっているようです。

脱法ハーブというものの危険性に気づいた著者は2012年頃にその流通から製造がどのようなところで行われているのかを調査しようとしました。そして販売業者や関係者のつてをたどって製造工場を探るのですが、一応不法ではないとは言えかなり警戒される中での接近となり相当危険な目にもあったようです。どうやら中国にある化学製造工場で合成カンナビノイドの原薬が作られ、それを密輸して国内でハーブ原料に混ぜる工場があり、それを販売業者に流すと言うルートがあるようです。
しかし、もともとの原薬はほとんど同じものばかりなので製品は何種類あっても代わり映えのしないラベルの違いだけで売るようなものだったのですが、どこかの業者が原薬をブレンドすると言うことを考え出したようです。それが、想像もできないような化学反応を呼び、非常に危険な作用を及ぼすようになったということです。これで脱法ドラッグはさらに危険性が増しました。覚せい剤などはそれ自体の作用は危険なものなのですが、化合物は良く知られたものでありその中毒作用なども研究されているものですが、脱法ドラッグの作用と言うものはまったく知られていないものも出てきてしまい、中毒で病院に担ぎ込まれても医者もどうしていいか判らないということになってしまいました。

脱法ハーブということで、ちょっと見た目にはヘロインや覚せい剤といった本格?麻薬よりはマイルドなイメージがあり、そこに引っかかって普通の人間が始めてしまうということが良くあるようです。警官や議員といった人でもその罠にはまってしまったと言う例がいくつもあるそうです。法規制はいつまでたっても追いつきそうもありません。違法でなければ何をやってもよいという個人主義の暴走がこのような事態を生んでいると言うのが著者の主張です。脱法と言う概念をなんとか押し止めたいと考えているようです。