爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「債務ブーメラン 第三世界債務は地球を脅かす」スーザン・ジョージ著

スーザン・ジョージと言う同じ名前の女優も居るようですが、この著者はそれとは別人でアメリカ生まれでパリ在住の政治経済学者で、今はどうかは知りませんがグリーンピースでも活躍していたようです。
南北問題などを取り上げ、先進国が途上国を開発と言う手段で食い物にしている状況を厳しく批判してきたのですが、この本はその活動のかなり初期のものだそうです。
スーザンジョージ著となっていますが、アムステルダムトランスナショナル研究所という研究機関との共同研究および編著と言うことです。

先進国が途上国を開発すると言う名目で資金を貸し付ける開発援助は非常に多額の資金を注ぎ込んで行われてきましたが、それはあくまでも貸付であって贈与ではありません。したがって途上国側はその返済をしなければならないのですが、そのような開発が富を産み出すことにつながらないために、債務が重くのしかかっています。この影響が実は資金を貸し付けた先進国側に跳ね返っており、それで債務国側の民衆だけでなく債権者側の先進国の国民も様々な悪影響を受けているということになってしまいます。
その状態を「債務ブーメラン」と表現し、その内容を細かく論じたのが本書の内容です。

債務ブーメランには次の6つの道筋があるそうです。1.地球環境破壊 2.麻薬 3.納税者の負担増 4.失業と市場縮小 5.移民の圧力 6.地域紛争と戦争の激発
いずれもが先進国から与えられた(押し付けられた?)開発援助という名前の債務が途上国の国民経済全体を圧迫し、そのために途上国の環境破壊、国民の流出、内戦等につながり、結局はそれが先進国も巻き込んでしまうと言うことになるというわけです。
本書の原書は1992年に出版され、翻訳本が1995年出版ですが、これらの状況は現在でもまったく解消されることはなく、かえってテロ頻発や難民増加、温暖化など影響の激しさは増すばかりのようです。
著者はそれを引き起こしたIMFと世界銀行の行為を強く批判しています。奇しくも現在これにさらに上塗りするようなアジアインフラ投資銀行設立問題で揺れています。結局、IMFなどの犯罪行為をさらに上積みしていくという方向なのでしょう。

環境破壊で著者が取り上げているのが、最大の債務国で最大の森林喪失国であるブラジルの例です。世界銀行はお気に入りの事業として大規模なダムを作らせましたが、そのために土地を追われた農民たちは森林破壊を起こしました。また、世銀融資で作られた道路を通って奥地まで開拓する手段を与えました。いくら「追い立てられた農民」という気の毒な人々でも森林破壊は有害な影響を引き起こしてしまいます。
「納税者負担増」というのは少し判りにくいことですが、開発援助というものが先進国の民間銀行から資金が出ている場合、そこに貸し倒れ引当金として税を免除される可能性がある国が多いためだそうです。国により事情は違いますが、その全てが無税になった国もあったようで、結局その利益は先進国の納税者から銀行に移転させられていることになるそうです。

移民の激増というのは、著者をはじめとする調査チームが、この本のための調査をしていた最初から、もっとも重大な「ブーメラン」になるだろうと予測していたようです。イギリスやフランスなどへの第三世界からの移民というものは非常に増加しており、それが各国を揺さぶり続けています。(そのため、オリンピックの金メダルが取れると言う影響も出ているようですが)
途上国の経済を徹底的に破壊するような政策をしたのは、先進国側ですが、そのために故国を逃れた人たちが向かうのもその先進国と言う非常に皮肉な運命を感じる話です。その結果西欧社会は大きな混乱にさらされています。日本は移民は制限していますがそれでもまったくないわけではないのはご存知の通りです。

読み応えのある本でした。スーザンジョージという人には非常に興味を覚えました。他の著書も読んでみるつもりです。