爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「旧約聖書の謎」長谷川修一著

著者はオリエントの歴史、聖書の歴史を専門とする史学者で、ハイデルベルグ大学、テルアビブ大学などでも研究をしてきたという専門家です。
旧約聖書ユダヤ民族の神話として扱われていますが、以前は(そして一部の人は今でも)本当の歴史を記述されている、または反映しているとされてきました。
さすがに天地創造などは歴史上の出来事と考える人は(居なくなったわけではないが)少なくなりましたが、出エジプトモーセに主導されエジプト脱出)は歴史として扱われていることが多く、歴史教科書にも載っているということです。
そこで、聖書研究の専門家が最新の研究成果も含めて聖書に扱われた事件がどのような事実を反映している可能性があるかと言うことを記述しています。

ノアの方舟ではいまだにその痕跡を探すと言う人がいるようですが、これは明らかにメソポタミア地方での数々の洪水の記憶が反映されたもののようです。紀元前6世紀にイスラエルバビロニアに滅ぼされ、バビロン捕囚として多数の人々がメソポタニアに連れて行かれますが、その時に耳にした洪水伝説が元ではないかということです。そのため、洪水の細部もシュメル語によるさらに古い時代のものではなく、新しい時代の標準版ギルガメッシュ叙事詩に類似しているということです。

出エジプトは他のエピソードと異なり、現在でもかなり歴史の事実と捉えられる傾向が強いようです。エジプトから脱出の際の海が割れたという現象を科学的に理解しようとする研究が後を絶たないようですが、さまざまな点でそのような解釈には無理が大きいようです。その時のエジプトのファラオの名前は聖書には書いてありませんが、種々の記述を総合するとラメセス2世になるということになり、学術書でもそのような記載をされているものがあるそうですが、その当時はエジプト史上最強の王国であったということで、遠くパレスチナの彼方まで勢力下にありとても逃げ切れなかったようです。
どうやら小規模な脱出が何度も起こり、それをまとめて一つの物語にしたのではないかという著者の推測です。

エリコの闘いというとエジプト脱出のあと最初にイスラエルが滅ぼした都市ですが、そこでは角笛の音で城壁を破壊したと言う有名な挿話があります。これもどの町と考えるかと言う大問題があり確定はできないものですが、位置と発掘成果から現在のイスラエル北部のハツォルという場所をそれと同定する説があるそうです。確かに戦争で破壊された跡があるのですが、その年代に無理があるとともに、なにより「その時代には城壁はなかった」ということです。

最後に大魚に飲み込まれたヨナの話が語られています。さすがにこれを史実と考える人は居ないようですが、これを聖書に載せた当時のユダヤの人の意図は明らかです。他の聖書の記述もそのように考えていけば良いのではというのが著者の意図でしょうか。