爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「気象災害を科学する」三隅良平著

著者の三隅さんは防災科学技術研究所の研究者で、専門は気象学とくに雲の物理学ということですが、この本では広く気象災害について一般向けに解説しています。

冒頭にあげられているのは、2008年に東京で局所的な集中豪雨があり、下水道工事をしていた人が流されて5人が死亡したという事故ですが、その時は雨量計の測定では1時間に43mmという雨量だったのが、最新式レーダーの解析をしてみると現場では109mmの雨が降っていたそうです。その解析によるとその日は関東地方で100個以上の積乱雲が発生していましたが、そこまで激しい雨の降ったのはごく狭い領域だけでした。何も事故が起きなければ判らなかったことかもしれませんが、そのようなことはしばしば起こるようです。

積乱雲というものは大きな一つの雲ではなく、小さな対流セルという細胞がいくつも含まれる多重構造だということです。一つ一つのセルはせいぜい30-50分の寿命しかないのですが、それがかわるがわる発生することで大きな積乱雲となっていくそうです。
梅雨時の集中豪雨ではより広い範囲で猛烈な雨が続くことがありますが、これはバックビルディングという規則的な対流セルの動きにより発生します。これもセル自体の寿命は長くはないのですが、同じ位置で次々とセルが交替していくことで激しい雨が続くと言うことになります。
広島でそのような局地的な集中豪雨があり新しい住宅が土砂に流されたと言う記述があり、出版日を見直しましたが2014年5月の出版でした。つまり、昨年8月の広島の大規模土砂崩れのことではなく、1999年の水害のことでした。繰り返し起きているということが判ります。教訓にはなっていないようです。

竜巻と雷のメカニズムというものも細かく解説してあり、また竜巻を監視するレーダーというものも発達しているようです。
先に積乱雲はいくつもの対流セルからなっていると書きましたが、一つだけのセルが巨大になる「スーパーセル」というものもできるということです。これは普通の対流セルとは異なり大きさもさることながら、寿命も非常に長いもので、それが回転することで竜巻を作り出すようです。

雪の災害では毎年100人ほどの方が亡くなっているそうです。多くは除雪作業中の転落や圧死です。雪のない地方の人が考えると自動的に滑り落ちるような屋根にしたらと考えがちですが、そんなことをすると滑り落ちた雪で多くの人がつぶされるそうです。
克雪構造住宅と言うそうですが、自動的に滑り落ちるというのも周囲に人が入らないようにできれば効果はあるのですが、なかなか日本ではそのような場所は確保できないでしょう。その他、電熱を使ったり水を流したりといった方策もあることはあるようです。

防災と言う観点からは情報をどのように流すかということも大きな問題であり、大雨で避難指示などを出せるのも降りだした後になり、避難中に流されるという被害も頻発するようです。かといって前もって避難しておくというのも難しいことであり、まだ試行錯誤が続くことでしょう。

雪の害はようやく一段落の時期となりました。しかしこの後しばらくは突風、その後集中豪雨でしょう。自然災害というものが繰り返しやってくるのが日本の宿命なのでしょう。