爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「所得バブル崩壊」水野和夫著

水野さんの最近の本はグローバル経済の本質を見抜いたものを読み感銘を受けました。http://d.hatena.ne.jp/sohujojo/20131029/1382995575
そこで、以前の本も読んでみようとばかりに行きつけの市立図書館の蔵書を検索して見つけたのがこの本ですが、13年前の2002年刊行ということで経済書としては古く現状と合わないと見られたためか、図書館でも一般の書棚ではなく倉庫の方に入っていたようです。しかしほとんど読まれていないのか装丁は新書同然で、内容もさほど古さを感じさせないものでした。

本書執筆の2001年当時は、あのバブル崩壊から10年ほど経過したものの依然として不良債権の山に悩まされ、「失われた10年」と言われていたものです。それを何とか浮揚させようと政府は巨額の公共投資を繰り返し、それが現在でも財政を苦しめている主因になっているのですが、その点についても著者は本書中に触れています。

80年代のバブル景気というものは、プラザ合意後の急激な円高で資金を手にしたために土地に集中したものと見られていますが、著者によればその遠因は戦後の経済成長というもの自体に内包されていたようです。
そして、土地バブルというものは一旦終焉しますが、その後の修復過程で実は「国債バブル」とも言うべきものに形を変えてしまったということです。
これは非常に危険なものであるのにそれを認識している人は少ないとか。10年後の今でもそうでしょう。

バブル時代の土地投機の過熱というものは印象に強いものですが、実はそれ以前の高度成長期から土地は値上がりするという土地神話が存在し、そのためにそれを担保にした借り入れで回していくという企業体質が出来上がってしまったということです。そのために、本業の収支で儲けて配当するという正常なものではなく、特に日本の非製造業の実態と言うものはひどい状況といえたということです。
さらに、それに加えて従業員の給与というものも正常な労働分配率を無視し、一直線に増加させてしまった。それが本書の表題ともなっている「所得バブル」というものだったようです。

その後の経過を見ると、その所得バブルも崩壊してしまいほとんどの労働者の所得は激減してしまいました。ただし、その減り方というものが二極化しているというのは政策上の欠陥だったようにも思います。

アメリカはそれ以前の不況をITブームとグローバル経済化で打ち破りました。本書のそれ以降の記述、将来の見通しという点はやはり実情とはずれが生じたようですが、それがさらに悪い方向にずれているようにも思えます。
その結果が、最近の著者の近刊につながっているのでしょう。また再読してみたいものです。

なお、本書の中での解決策の提案では企業課税の歪みの是正の必要性が挙げられています。ほとんどの企業が赤字決算ということで納税を免れている、また死亡者の相続税もほとんど払う人がいないと言う税制の欠陥がひどくなっています。そこを是正し外形標準課税といった方策で課税して少しでも財政健全化を進めなければ将来の危険性が増すというのは、今でもまったく古びていない主張と思います。