爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「大江戸えねるぎー事情」石川英輔著

江戸文化研究家であり、また江戸時代のエネルギー事情などの著作もある著者で、私も最近その関連の著作を読みましたが、著者がそのような江戸時代と現代とのエネルギー事情比較というものを始めた最初のものが本書のようです。
1989年に出版されていますが、その前に原子力財団のPR誌の連載ということで書いた記事をまとめたものです。

江戸時代と現代とは大きく異なる世界になってしまいましたが、その一番の相違点はエネルギー源として石油などを用いている現代と、ほとんどが農産物と人力だけで生活していた江戸時代ということです。
その点について、さまざまな生活の場面においての所用エネルギーを試算してみたと言うものが本書の構成になっています。作家と言う職業のかたわら、理系の大学出身で印刷業をしていたという著者らしくなかなか緻密なエネルギー計算をされています。この辺のところは、再生エネルギー装置開発などにあたりながらそのエネルギー収支の計算も(意図的に?)部分的なものに限定して発表している技術者などは見習って欲しいものです。

とはいえ、江戸時代の方は原材料に農産物、労力は人力だけということで非常に計算はしづらかったようです。一応、人間一人の摂取エネルギーから基礎代謝エネルギーを引いた1000キロカロリーが消費エネルギーと考えて計算されていますが、現代の消費エネルギーから見るとほとんどその程度のものは誤差の範囲内であり、まあ比較にもならないところです。

野菜の製造エネルギーを試算していますが、人力だけとも言える江戸時代では大根を仮に2000本作るのに60日かかったとすると、労力は60×1000Kcalで60000Kcal,一本あたりにすると30Kcalに過ぎないわけです。しかし、現代では化学肥料や農薬にエネルギーを使っているので、150Kcalほどになるようです。しかし、大根はほとんど現代でも露地栽培なのでこの程度で済みますが、ハウス栽培をすると桁違いに跳ね上がります。
トマトの場合で露地栽培では1個200Kcal程度と計算できるのが、ハウス栽培では700Kcalと数倍に上がり、特に北海道などの寒冷地でハウス栽培をするとさらに上がるそうです。

その他すべての現代生活の隅々にまでエネルギー消費というものが行き渡っています。そのために現代ではスイッチ一つで何でも出来るようにはなっており、今から江戸時代の生活を想像すると「あんな不便な生活はできない」と思えるのですが、当時の人はそれが普通の生活であり特に不便と言う感覚はなかったのではないかと書いてあります。
それ以上にその生活の中でいろいろなことを楽しむという余裕が昔の人には溢れていた。仕事に追われる現代人がこれでよいのかと言うのが著者の問い掛けです。